2013 Fiscal Year Research-status Report
サイボーグ思想の「原型」―1920年代のイギリス科学思想界の分析
Project/Area Number |
25370091
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
柴田 崇 北海学園大学, 人文学部, 准教授 (10454183)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | サイボーグ / 技術思想 / 科学思想 / ホールデン |
Research Abstract |
本研究の特長は、サイボーグ思想の「原型」を1920年代のイギリスに求め、「原型」からの変異として今日のサイボーグ論を考察するところにある。平成25年度の成果は、「原型」の形成過程の最重要人物と目されるJ・B・ホールデンの科学、および技術思想の特質と思想的展開の軌跡を確認できたところにある。後にロンドン大学の遺伝学教授に就任するホールデンは、当初、同世代の中で突出した優秀さを発揮したものの、伝統的な生理学を専攻する一学徒に過ぎなかった。イギリス思想界の俊英を執筆陣に迎えて科学、道徳、女性などのテーマ毎にその未来を予測するTo-Day and To-morrowシリーズが1920年代初頭に企画されたとき、編集者は、同シリーズの最初期の一冊の執筆をホールデンに依頼した。ホールデンが著したDaedalus(1923)は、生殖質への働きかけによる人間進化の可能性を論じたものとして知られているが、同書を精査すると、G・K・チェスタートンを名指しで批判する反保守主義、H・G・ウェルズの未来予測への好評価とともに、幾何学から数理物理学を経て生理学に至る科学史観、そして、材料開発の中心が物理化学から生化学に移行するとの独自の技術史観が読み取れる。アカデミズムの枠に捉われなかった同シリーズはホールデンに自由な発言の場を与え、そこでホールデンは、単なる生理学から化学的知見の応用を前提にした生化学への展望を開示したのである。この意味で、同書は、ホールデン自身のその後のキャリアを暗示するとともに、身体を材料、あるいは加工の対象と見做す発想に「科学的」根拠を与えるものとして、同シリーズを先導する地位にあったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のように、同シリーズの後続の執筆者たちが参照した科学、技術に対する発想が特定できたのは成果の一つと言えよう。実際、ホールデンの発想が数名の著者の記述に取り入れられていることも確認でき、ホールデンを中心にした見取り図の概要は見えてきたとも言える。とはいえ、300頁を超える合本の25巻からなる同シリーズは、未だ通読するには至っていない。当初平成25年度中に、To-Day and To-morrowシリーズ内の影響関係の特定を予定していたが、通読を完了していない段階では、今後、想定外の影響関係が見つかる可能性は否定できない。当初の予定が達成できないことから、少々の遅れを認めざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
同シリーズの通読を継続し、見取り図の完成を最優先する。同シリーズのテクスト間の影響関係の概略を把握した後は、当初の予定通り、同シリーズへの外的影響、すなわち、19世紀末以降の技術革新や科学説からの影響を精査する作業に移る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
To-Day and To-morrowシリーズのカタログ価格に変更があり、計画よりも安価で購入できたため。 関連書籍、資料の購入に充てる。
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