2014 Fiscal Year Research-status Report
サイボーグ思想の「原型」―1920年代のイギリス科学思想界の分析
Project/Area Number |
25370091
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
柴田 崇 北海学園大学, 人文学部, 教授 (10454183)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | サイボーグ / 技術思想 / イギリス / アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の特長は、サイボーグ思想の「原型」を1920年代のイギリスに求め、「原型」からの変異として今日のサイボーグ論を考察するところにある。平成26年度内の目標は、To-Day and To-Morrowシリーズを当時の科学技術の関係に注目して読解するところにあった。人為的な身体加工の可能性に科学的根拠を与えたのは、同シリーズの最も早い時期(1923年)の執筆者であり、当時のイギリスにおいて最も「先鋭的な」未来予測者だったJ・B・S・ホールデンの遺伝生物学だったことは疑いえないが、身体加工に進化の時間軸を与えたのは、同シリーズに最も遅く(1929年)加わったJ・D・バナールだった。両者は、同シリーズにあって科学的知見に拠りつつ中長期的な未来予測を行った点で執筆陣の中で突出するが、身体加工による人間の進化を宇宙的な時間の中で考察した点で、バナールを後続のサイボーグ論の「原型」と認めるべきである。バナールが依拠した熱力学第二法則、所謂エントロピーの法則のアイディアは、約10年間の内にN・ウィーナーとB・フラーに継承され、21世紀のM・モアらのエクストロピア二ズムに続くアメリカにおける系譜を形成するに至った。今日のサイボーグ論は、K・ケリーのテクニウムでの議論のように、より大規模な技術論の一部に配置され、議論の焦点も、身体加工による人間の変容という現象を包摂する法則の発見に移行している。21世紀のサイボーグ論の基調は、ポストヒューマンの登場に対する悲観的反応を超えて、法則の発見と実現に寄与することへの肯定的、かつ楽観的な態度に彩られている。技術革新や科学的発見等の外的要因から、こうした「楽観論」への転換期を特定し、中長期的視点に人間の実存に関わる短期的視点を組入れる可能性を考察すべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
読解を終え、発表に至るまとめの作業に少々遅れがある以外、おおむね計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
サイボーグ思想の「原型」を形成したTo-Day and To-Morrowシリーズにおける執筆者間の布置を視覚化する作業に着手し、1920年代から今日に至る系譜の概要を提示する。あわせて、短期的視点と長期的視点、人間の実存と法則の発見の間で、今日の議論が後者に大きく振れている点を指摘し、中長期的視点に人間の実存に関わる短期的視点を組入れる可能性を考察する。
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Causes of Carryover |
基本著書(To-Day and To-Morrow)の読解に予定以上の時間を要し、関連書籍の購入が遅れたこと、および発表の準備の遅滞による。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
関連書籍、および資料の購入と発表にかかる支出を行い、当初の予定を遂行する。
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