2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370101
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
遠藤 徹 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (10313280)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 楽律 / 音律 / 中村惕斎 / 律呂新書 / 中根元圭 / 律原発揮 / 張介賓 / 類経附翼 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、各地の楽律学関係書の調査と収集を行うとともに、前年度までに収集した文献を順次解読し、近世の楽律学の展開の概略を整理した。調査は彦根城博物館、京都大学附属図書館、東北大学附属図書館狩野文庫などで行い、その他、国立国会図書館、宮内庁書陵部などに伝来する関連資料の複写もあわせて行った。収集した主要な資料は安倍季良『山鳥秘要抄』、橘南谿『薬量邇言』、平岩元珍『はらつゝみ』、亀田鵬斎『風声図説』などである。 近世の楽律学の展開については、儒学者の中村惕斎およびその弟子の斎藤元成の『律呂新書』研究に端を発する近世の楽律研究が、江戸では荻生徂徠を経て独自の展開をみせること、京都では『律呂新書』研究が医家の鈴木蘭園等に受け継がれる一方で、和算家の中根元圭が俗楽音階の記述や十二平均律の計算を行い、医家の橘南谿が律管や鐘の音律の調査を行うなどの展開があったこと、大坂では富永仲基が徂徠批判を行いつつ独自の楽律学の研究書を著したこと、尾張では蟹養斎、中村習斎等を経て、平岩元珍、永田泰山などの異色の研究が生まれたことなどを確認した。 これらの中で本年度はとくに中根元圭を集中的に考察し、元圭が儒学者とは異なり古医方との関係から度量衡に関心をもち、明の張介賓著『類経附翼律原』に基づいて音律の研究を行ったこと、元圭の度量衡研究は張介賓の不足分を自身の計算で補い、当時の日本に通行する尺度や秤に換算する作業が基調をなし、そのことが俗楽音階を記述するに至った重要な背景となっていること、十二平均律の算出は、三分損益法の問題点を数理的に理解したことと、和算の冪根の計算法の発達が重なったところで生まれたと解せることなどを明らかにした。これらについては日本音楽学会第65回全国大会パネル「東西の十二平均律」、一般社団法人東洋音楽学会第65回大会パネル「近世前中期の儒学と楽思想」で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに調査収集した資料から近世の楽律学の展開を俯瞰することが可能になり、ある程度の成果が得られたので、当初3年度目に予定していた学会発表や論文執筆を一部繰り上げて行った。その一方で、律管の調査や試作試奏は、まだ課題が多くあるため次年度に持ち越した。このように研究の順序を一部入れ替えたが、総合的に見て概ね順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
近世の楽律学の展開に重要な役割を果たした人物やその主要な著書の概要は把握されてきたので、それらを位置づける作業を行っていく。なお伝来品としての律管は現在の所在地が確認できるものが少なく、試作も素材入手の観点から困難な面がでてきたので、笙の竹管および図竹で代替することを考えている。笙の竹管および図竹は実際の基準音を示すものであり、律管の不足を補う情報が得られると思われるからである。
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Causes of Carryover |
研究の順序を一部入れ替え、当初予定していた律管の調査、試奏、試作を次年度に持ち越すことにし、予算を多くとっていたこれに関連する謝金が持ち越しになったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
律管の調査は笙の竹管および図竹に変更する可能性もあるが、いずれにしても演奏家等の助力をあおぐことになり、持ち越し分は当初の予定通り謝金で使用する。学会発表は前年度に繰り上げて行ったが今年度も進捗状況に応じて新たに行う。
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