2013 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における楽器産業の発展メカニズムと音楽文化―鈴木ヴァイオリンを中心に
Project/Area Number |
25370107
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
井上 さつき 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 教授 (10184251)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヴァイオリン / 鈴木政吉 / 楽器産業 / 近代日本 / 音楽 / 博覧会 |
Research Abstract |
本研究は、戦前に日本を代表する一大産業へと発展した洋楽器製造に着目し、鈴木ヴァイオリンを事例として、その発展メカニズムと音楽文化とのかかわりを読み解き、さらに、国際的な文脈に置き直す試みである。 創始者である鈴木政吉(1859-1944)は、尾張藩の下級武士の息子として生まれ、明治20年に初めてヴァイオリンを目にし、見よう見まねでヴァイオリンを作り上げた。その後家業となっていた三味線店を廃業し、ヴァイオリン製造を本職とするに至った。 彼は明治末期には工場での量産体制を確立し、国産弦楽器のトップ・メーカーとなった。大正期にはヴァイオリンの棹を削る機械を開発し特許を取るなどして、大量生産品としては国際的に通用する楽器へとレベルアップを成し遂げた。鈴木ヴァイオリンは国内外のさまざまな博覧会においても受賞を重ね、それを梃子に輸出へと踏み出し、欧米市場への参入を果たした。 第一次大戦中は、諸外国への輸出が大幅に伸び、大正10年前後には、1000人を超す従業員が毎日500本を量産し、年間10万本を輸出したこともあったが、大戦後は、不景気と輸出の減少により人員削減を迫られた。そのような状況で、鈴木政吉は、追求する音色の方向性をクレモナのオールドヴァイオリンに定め、昭和19年に亡くなるまでヴァイオリン作りの研究を続けた。 今年度は、鈴木政吉について研究し、単著を刊行した。その中では、鈴木政吉がゼロからスタートして、一方では、廉価で良質な量産品を日本国内に流通させることにより、他方では、国際水準の芸術的手工ヴァイオリンを作るまでにみずからの技能を磨き、結果として近代日本の音楽を下支えしたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本来、初年度は基礎調査にあて、国内およびヨーロッパでの調査を中心に行う予定であったが、ベルリンでの当面の調査はベルリン在住の畑野小百合氏に委託するなどして資料を揃え、2014年5月にこれまでの研究をまとめた単行本を中央公論新社から出版することができたことによる。 さらに、出版に合わせて、鈴木政吉が1929年に製作した手作りヴァイオリンを使ったレクチャーコンサートを2回(愛知県立芸術大学の室内楽ホールと宗次ホール)で開催できたことは大きかった(宗次ホールは6月3日の予定)。この出版とコンサートについては新聞各紙(中日、朝日、読売)に取り上げられて、大きな反響を呼び、鈴木政吉に関する興味を広く呼び起こした。
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Strategy for Future Research Activity |
予定では、2年目は国内・国外調査を続行しつつ、前年の基礎調査に基づき、研究を進めることになっていたが、単行本の出版を機に、さらに新たな研究の可能性を探りつつ、国内・国外調査を積極的に行う。 また、レクチャーコンサートや講演、執筆等を通じての、一般へ啓蒙活動も続けて行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は長期特別研修でパリに4カ月間滞在することになり、当初予定していたヨーロッパでの調査をとりやめたため、旅費等の使用計画が変わった。 また、著書出版に向けて、執筆を優先させたため、研究計画を一部変更したことによる。 今年度は前年度に行うことができなかった国内・国外調査を実施し、旅費を執行する予定であり、それに伴って、謝金等も発生する。また、各種資料の入手を積極的に行う。
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Research Products
(1 results)