2014 Fiscal Year Research-status Report
「言語/形象」関係論のための、制作手法に即した河原温研究
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25370112
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
平出 隆 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (90407825)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 芸術諸学 / 言語/形象 / コンセプチュアル・アート / メールアート / アーティスト・ブック / 絵画文法 / パーマネント・エキシビション / メディア・通信技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
「言語/形象」の本質的関係を明らかにしようとする河原温についての本研究は、前年度に引き続き、以下の3つに大別し、その分析結果を束ねていった。 1.作品に即した形態論的分析(具体的な細部検証。タイポグラフィーとして表れる文字や、ファイリングや函を含む書物、葉書や電報という通信形態を巡っての考察。):チューリヒ、ベルン、バーゼル、ケルン、ベルリン、フランクフルトを中心に、「言語」と「形象」を意識的に混在させる現代美術の中から、重要な関連をもつものを探査した。とくにパウル・クレー・センターでは、これをテーマにした展覧会があり、成果を挙げた。 2.時代背景としての文明史に即した展示論的分析(作品そのもののみならず、世界中に残された記録芸術としての痕跡やメディア文明史を背景にした成立の根拠を考察し、同じ作家の展覧会における展示と美術館以外の場での展示を比較すること。):ベルリン、フランクフルトの通信博物館を調査し、背景の探究とした。ザンクト・ガレンの修道院図書館における過去の展示と、京都の帯問屋での「デイト・ペインティング」の展示調査は、パーマネント・インスタレーションを理想とした作家の志向の、側面からの点検でもある。 3.作家主体に即した思想研究(「言語」と「形象」の本質的な関係について河原温がもっていた思想を、その言説、行動から掘り起すこと。またとくに、断たれたかに見える日本との関係について洞察すること。):「印刷絵画」を提唱した日本脱出直前の作家の作品と論文の関連を研究し、日本時代から親しい美術家・岡崎和郎氏へインタビューを行った。 また、前年度に続く「芸術と土地との関係」の調査は、ベルリンにおいて《I WENT》の足跡調査を行なった。また、作品《I GOT UP》シリーズをハンブルガー・バーンホフ美術館のコレクション展示において調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
河原温は、自身の展覧会にまったく姿を現さず、写真を撮らせず、手紙など手跡を残さない、自作について語らないということで徹底した「作家神話排除」を行なってきた、極めて特異な作家であった。したがって、上記3「作家主体に即した思想研究」は、誰にとっても極めて困難な課題としてあり続けた。しかし、平成26年6月のヨーロッパ調査の直後に、河原温が逝去した。これによって、調査研究の環境は一変した。 その理由は、河原温の遺志を承けて、ご遺族は研究代表者(平出隆)に対して、これまで隠匿されてきた作家周辺の事実、逸話などの全面的な提供を申し出て下さったからである。
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Strategy for Future Research Activity |
河原温の逝去後、ご遺族の全面的な申し出に従い、夫人からの作家周辺の聞き取りという河原温研究史にとって画期的な作業が、今後の本研究の大きな中心部となる。 平成27年度以降はニューヨーク在住の夫人と電話、メール、ときに会見によって、これまでまったく明かされなかった、しかも長期にわたる事実の書き留め作業が行われる予定である。但し、この事実開示は全面的であるだけに、公表に際して大きな制限があり、発表に関しては、夫人の点検や制御下のものとなる。 また、グッゲンハイムの回顧展、これに並行してベルギー・ゲントで開催される、1966年に焦点を当てた河原温展を調査する。 上記と並行して、「言語/形象」関係論研究は、方法的に河原温芸術を多次元構造体とみなし、その周辺を多角的にめぐりつつ、実証的言説や諸研究の再精査、同時代の複製技術・通信技術論をも積み重ねていくものとする。 研究成果は順次、論考整頓のための紙の媒体「ON / ON KAWARA」に Work in Progressとして累積され、累積されながら改稿され、再構成されていく。
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Causes of Carryover |
本研究で使用する書物は、その性質上、高価が予想されたが、存外に安価に手に入ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、米国ニューヨーク市にて河原温夫人からの作家周辺の聞き取り作業が中心となる他、、グッゲンハイムの回顧展、これに並行してベルギー・ゲントで開催される、1966年に焦点を当てた河原温展といった現地調査が、本研究において重要な位置づけとなる為、前年度の残金及び平成27年度の研究費は、主に旅費として使用予定。
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Remarks |
平出 隆,『ON / ON KAWARA』, 01号,02号,03号,04号,05号,06号,07号,08号,2014年度発行,総ページ数:各8ページ(私家版)
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