2015 Fiscal Year Research-status Report
「言語/形象」関係論のための、制作手法に即した河原温研究
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25370112
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
平出 隆 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (90407825)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 芸術諸学 / 言語/形象 / コンセプチュアル・アート / アーティスト・ブック / ポスタル・アート / マルティプル / 印刷絵画 / メディア・通信技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
「言語/形象」の関係を軸にコンセプチュアル・アーティスト河原温の研究を継続してきた。自身の実生活を秘匿した作家の死(平成26年6月)によって、研究状況・方法は一変した。まず平成27年春にニューヨークのグッゲンハイム美術館で大回顧展が開催され、全貌が客観化された。また、続けてベルギーのヘントにて、デイト・ペインティングのスタートした1966年のみの絵画が集積され展示が行なわれた。これらを調査した。 加えてご遺族の協力により、国際的キュレーター・カスパー・ケーニヒ氏や作家の岡崎和郎氏、写真家奈良原一高夫人の奈良原恵子氏からの証言を得た。もっとも重要な成果は、夫人の河原弘子氏からの証言を定期的に得た点である。ニューヨーク在住の夫人と毎月一度のペースで、毎回1時間半程度のインタビューを開始した。これは最終的研究成果でもある「河原温についての伝記的作品」という達成地点を共有してのものである。 研究・取材によって、河原温の作品の複線化されたシリーズ群に時間的な相互関係が刻印され、連絡づけられている点が確証された。そこで、時間的刻印と連関を丹念に拾いなおし得る一次資料を入手し、文章化する作業が開始された。この点がもっとも大きな実績である。この文章化作業は、非公開の紙媒体 «ON/ON KAWARA» においてアップデート方式で行なわれつつある。 伝記的な記述と並行して、「書物論研究」講座を展開した(多摩美術大学芸術人類学研究所等の開催)。研究は二つの系を持つ。一つは日本近代文学における重要な存在(正岡子規、森鷗外)との間の連関を見出す比較詩学的研究である。もう一つは、書物史・印刷史・通信技術史とアートとの関係の探索で、プライヴェート・プレス、アーティスト・ブック、ポスタル・アートとの中で河原温を捉えるというものである。ベルリンとフランクフルトで行なった通信技術博物館の調査はこれにあたる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成26年6月の河原温氏の逝去後、調査研究の環境が一変し、河原温氏の意思を承けて、ご遺族が研究代表者に対し、これまで隠匿されたきた作家周辺の事実、逸話などの全面的な提供を申し出てくださった。 平成27年度は、調査の主要対象者である河原温夫人から、重要な証言が相次いであがり、内容分析に多大な時間が必要となった。また、この証言の分析に必要な資料の収集のために、海外に注文している河原温自身の制作になる書籍、CDなどを入手するまでに多くの時間を要し、入荷待ちのため、計画が遅延している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は二つの方策をとる。 1)河原温作品に付属するタイトル・リストなどの重要一次資料を分析し、書籍、CD等の客観資料を整理して、研究成果報告書を取りまとめる。この成果報告書は、小テーマごとに8ページの冊子に数次にわたり作成する。(遺族との関係で公開不能のものがある。) 2)伝記的生涯についての記述を行なう。そのためには、河原温作品のすべてのシリーズの「連関」を見定める。例えば、複数のシリーズの制作を、ある一日に行なっている場合、その「連関」の記述は作家的な生涯の時間をあらわにしてくる。こうして、作品に即して伝記的生涯の記述を始め、続けていく。
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Causes of Carryover |
調査の主要対象者である河原温夫人から、重要な証言が相次いで上がってきている状況であり、その取り纏めのための選定や証言の分析に必要な資料(資料、CD等)を海外の業者に発注し、入手に多くの時間を要しているため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度未使用額は、河原温自身の制作になる書籍、CDなどの資料購入費(約50万)、河原温夫人の証言のテープ起こし費用および研究成果取り纏め費用(約13万)として使用予定である。
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Research Products
(9 results)