2013 Fiscal Year Research-status Report
ニコライ・メトネルのピアノ・ソナタの批判校訂版楽譜の作成
Project/Area Number |
25370115
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高久 暁 日本大学, 芸術学部, 教授 (20328769)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ニコライ・メトネル / 批判的校訂楽譜 / ディアスポラ音楽家 / ピアノ・ソナタ / 20世紀の音楽 / ロシア音楽 |
Research Abstract |
①科研費の採択に先立ち、研究の基礎となる論文『ニコライ・メトネルの作品の校訂 問題点・原理・方法』(日本大学芸術学部紀要第57号、49~62頁)を執筆した。本論文はメトネル作品の批判的校訂楽譜作成上の問題点と、校訂の指針・方法について述べたものである。 ②メトネルの14曲のピアノ・ソナタのうち、ヘ短調作品5、ソナタ三部作作品11、ソナタ・ロマンティカ作品53-1、ソナタ・ミナチオーザ作品53-2の6曲について、ロシア国立グリンカ音楽文化博物館コンソーシアム所蔵のメトネルの私家版楽譜、国立カナダ図書館・文書館所蔵のアルフレッド・ラリベルテの私家版楽譜及び作品53の自筆譜、大英図書館所蔵のエドナ・アイルズ旧蔵の私家版楽譜、ロシア国立文学・芸術アーカイヴ所蔵の作品11の自筆譜を照合、批判校訂版楽譜の原稿作成を行った。 ③メトネルに関する一次・二次文献を改めて精査した。その結果オーストラリア及びニュージーランドにおいて、研究者が従来知り得なかったメトネル作品の録音、メトネル作品に関する文献、メトネルの生誕百周年に行われた演奏会や放送番組等を発見、オセアニア地域におけるメトネル受容が判明した。 ④楽譜作成の見地からメトネルの書簡の研究の方法論を検討した。メトネルの音楽的意思は妻アンナの書いた書簡にも反映されているため、メトネルの書簡研究では妻アンナの書簡も同等の意義を有するものとして扱われる必要がある。 ⑤メトネル作品の主要な出版社の一つロシア音楽出版社(Russischer Musikverlag)について改めて調べるうちに、この出版社の活動が1930年代後半にA.チェレプニンによって東京、ウィーン、ニューヨーク等で出版された「コレクション・アレクサンドル・チェレプニン(チェレプニン楽譜)」に影響を与えていることが判明した。そこでチェレプニンの楽譜出版活動についても調査や資料収集を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①科研費の採択に先立ち、従来の研究から得た知見を論文としてまとめることができた。折よく採択を得たため、この論文を出発点として、今後の研究を推進することが可能となった。 ②メトネルの14曲のピアノ・ソナタのうち、6曲について批判的校訂楽譜の原稿を作成することができた。 ③批判的校訂楽譜の作成には、作品の成立事情への理解が必要である。この観点からメトネルの書簡を扱う方法論について見直した結果、従来のメトネル研究では看過されていた視点及び見解を打ち出すことができた。また、オーストラリアやニュージーランドなどのオセアニア地域でのメトネル受容について、従来知られていなかった知見を見出した。 ④楽譜作成の研究には、その基礎作業として音楽出版社の歴史や作品の出版史を詳細に知る必要がある。ロシア音楽出版社について検討を深めた結果、その副産物としてやはり20世紀ロシア出身のディアスポラ音楽家であるアレクサンドル・チェレプニンの活動について、新たな知見を見出すことができた。これは研究者の研究に新たな地平と方向性を与えるものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
①平成25年度の研究計画では、2月から3月にかけてモスクワに調査のため滞在する予定になっていたが、この時期に研究者の私的な事情のために日本を離れることが困難となったため、調査を実現できなかった。その分日本で行うことのできる研究を重点的に行ったつもりではあるが、当初の研究計画通りにゆかなかったこともまた確かである。このため、平成26年度中にモスクワ・ロシア国立グリンカ音楽文化博物館コンソーシアム及びオタワ・国立カナダ図書館・文書館及びロンドン・大英図書館での調査を行うことにする。夏季休暇中と2月及び3月を調査期間に充当する。②メトネルの残る8曲のピアノ・ソナタと作品番号の付いていない初期作品《ソナチネ》について批判的校訂楽譜の原稿を作成する。また、ソナタ楽章と見なしうる未出版の初期作品や断片的な草稿についても調査を行い、楽譜に含めるかどうか検討する。③楽譜作成ソフトの操作能力を継続的に高め、過年度に作成した批判校訂版楽譜の原稿に基づいてパイロット版楽譜を作成する。④メトネルのピアノ・ソナタの主要な演奏家を選び、演奏解釈に関する聞き取り調査を行う。これは事前の準備を入念に行うことで資料調査と合わせて行うことが可能である。また平成27年度に、メトネルのピアノ・ソナタ全曲など多くのメトネル作品の録音・演奏を行ったオーストラリアのピアニスト、ジョフリー・トーザー(Geoffrey Tozer)の遺品を調べ、オセアニア地域におけるメトネル受容について調査する。⑤19世紀から20世紀前半にかけてのロシア・ソビエトの音楽出版史、また、ロシア・ソビエトとドイツ及びアメリカとの音楽出版交流の歴史と実情について、研究者らとのコンタクトも含め、理解を深めるようにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①平成25年度の計画として、2月から3月にかけてモスクワ(ロシア国立グリンカ音楽文化博物館コンソーシアムほか)に数週間滞在して調査を行う予定でいたが、研究者の個人的事情(住居の建造及び転居の準備)が当初の予想を超えて手間のかかるものとなったため、国外での十全な調査研究が遂行できなくなり、旅費を費消しなかった。 ②楽譜作成ソフトの操作技能向上について、指導者のもとでの学習を行わなかった。また、国外の調査を行わなかったため、これらの遂行のために計上した謝金が発生しなかった。 ①研究者の個人的事情は平成26年度の前半で一段落するため、平成26年8月から9月と平成27年2月から3月に、モスクワ(ロシア国立グリンカ音楽文化博物館コンソーシアムほか)及びオタワ(国立カナダ図書館及び文書館)及びロンドン(大英図書館)へ赴き、研究に必要な調査を行う。また、各地のメトネルのピアノ・ソナタの主要な演奏家にコンタクトを取り、演奏解釈に関する聞き取り調査を行う。その際に旅費を用いる。また調査に際して謝金を支払う可能性もある。 ②楽譜作成ソフトの操作技能向上のために、適切な指導者あるいは施設を選び、助言を受ける。そのために謝金を用いる。
|