2013 Fiscal Year Research-status Report
「静物」に関する脱領域的研究―ネーデルラント美術を中心に
Project/Area Number |
25370124
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
尾崎 彰宏 東北大学, 文学研究科, 教授 (80160844)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 静物画 / アルチンボルド / ルドルフ2世 / プラハ / ブルゴーニュ宮廷 / ファン・エイク / ペトルス・クリストゥス / ネーデルラント美術 |
Research Abstract |
本研究において「異文化間」の比較において重要な位置を占めるのが、アルチンボルドである。16世紀後半プラハで活躍した、ミラノ生まれの奇想の画家アルチンボルドがいる。彼は多くの人物像を、さまざまな動植物で構成している点できわめて特異な図柄となっている。こうした合成頭部については、さまざまな研究がなされてきた。修辞的な意味あいからそうした表現をとったのであるとか、一種の剽軽であるとかいったものである。アルチンボルドは、ルドルフ2世を植物と花々からなる人物像として描いているが、彼が試みたのは、これだけではない。他の宮廷人の肖像や四大元素といった寓意にもこうした合成頭部を当てている。人物の頭部を静物によって大胆に構成するという企ては、独特であり、アルチンボルトの顔の静物画は風景のなかに顔が浮かびあがってくる仕掛けとは異なり、それぞれパーツが顔を構成している。その意味で解剖学の挿図との接点が大きい。この構成原理を探求することによって、ネーデルラント美術の「静物」の特徴を側面から照射し浮き彫りにするための準備研究を行うことができた。 近年、Belozerskaya, Rethinking the Renaissance(2002) や同著者のLuxury Arts of theRenaissance(2005)によって、ブルゴーニュ宮廷をイタリアの宮廷から差別化するために提起された「豪華さ」という概念は、ネーデルラント美術の「静物」表現の克明さを考察する上できわめて有効である。ファン・エイク、ロヒール、ペトルス・クリストゥス等の作品に描きこまれた「静物」の個別性とネーデルラント美術にあらわれた「静物」が成立する心性の転回と美的機能ついて考察する手がかりを得るための足がかりを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予備調査や資料収集の段階を確実に積み上げながら、研究報告書の作成へむけて堅実に考察を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、イタリアをはじめとする海外調査や文献資料を渉猟することで、論を積み上げていきたい。具体的には、ネーデルラント美術における「静物」のような形象が質量ともに自律した形をとって表舞台に躍進してくるのは、16世紀のイコノクラスム(偶像破壊)を契機としている。ドイツに端を発したこの運動をネーデルラントで深刻に受けとめたごく初期の画家はアーツェンである。絵の中で宗教主題の占める割合が後退し、「静物」モチーフが大きな割合を占めるようになる。絵画の最大の役割が物語の内容を伝えることから、「美的な機能」へと変容したのである。美的なものとは、美しいという感情だけではなく、憧れやあるいは政治性など宗教とは別の要素が表象される契機でもあった。絵画の役割が「美的機能」に重心が移ることで、モノそのものよりも、描かれたモノ、つまり絵画化されたモノの方により大きな価値がおかれるようになる。こうした感性のプロセスを形象を『キリスト教綱領』(1536 年)を著したカルヴァンの宗教思想とも絡めて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
イタリアや東欧に海外出張を予定していたが、本務校の職務など諸事情が重なり計画が一年ずれこんだことによる。また、必要資料の一部が次年度送りになったことにもよる。 今年度前半に前年度予定していた海外出張を行い、資料の収集をはかると同時に、必要資料の入手に努める。
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