2013 Fiscal Year Research-status Report
気象芸術学の試み:二〇世紀初頭における庭師と天文学者と建築家
Project/Area Number |
25370135
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
後藤 文子 慶應義塾大学, 文学部, 准教授 (00280529)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 西洋近代美術史 / 近代建築・デザイン / 総合芸術 / 造園植栽・植栽 / 天文学 / 一元論 / ドイツ |
Research Abstract |
本研究の主たる目的は、近代芸術・建築研究に新たな視座を拓く研究方法論としての気象芸術学(Meteorologische Kunstwissenschaft)の構築を試みることである。それは、従来の美術史学研究における様式論やイコノロジー的意味解釈論によらず、むしろ近代の芸術を、それが隣接する諸科学との関係のうちにとらえ返す芸術学的試みであると言い換えることができる。 この目的に向けて本研究が主たる研究対象として着目するのは、従来の近代芸術研究において看過されてきた庭師(造園植栽家、Gaertner)の活動とモダニズム建築(家)の関係である。具体的には、20世紀にドイツで活躍した庭師・造園植栽家カール・フェルスター(1874‐1970)とモダニズム建築家ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969)の協働と、彼らの周辺における天文学・化学・物理学・倫理学等、隣接諸領域の重要な動向との関係である。 本研究の初年度に当たる平成25年度は、ベルリン、ポツダムの図書館・主要アーカイヴ・市文化財局においてフェルスターおよびミース・ファン・デル・ローエ関連の一次資料調査、およびドイツの専門家との情報交換を主軸に据えて研究を実施した。ベルリン州立図書館手稿コレクションの所蔵になるフェルスター遺稿類には、これまで美術史・建築史研究において留意されてこなかった重要資料が含まれており、未だ具体的な資料をもって実証されていないフェルスターとミース・ファン・デル・ローエの接点について新たな知見を提示する可能性を確証できたこと、ポツダム文化財局において現在整理中のフェルスター旧蔵書調査の手がかりを得て、今後の調査に道を拓いたことは本研究の展開にとってきわめて意義深い。それと同時に、本研究による新たな方法論構築がひいては近代の総合芸術の再考に向けて発展的に視座を広げつつあることも重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近代美術史学研究における実証性を基盤として本研究を進めており、その意味でも、ベルリン、ポツダムにおいて本年度に実施した調査が従来看過されてきたさまざまな資料の発見につながっていること、そして現時点までの研究成果を論文として発表する機会に恵まれたことは当初の研究計画に照らして充分な達成を果たした言えよう。その一方で、本研究申請時に当初計画として掲げたアメリカ、シカゴにおけるミース・ファン・デル・ローエ関連資料の調査実施に至らなかったことは、次年度への課題を残したと言うべきかもしれない。しかしながらこのことは、ドイツ、ベルリンにおける実地調査のプロセスにおいて、むしろこれを次年度に行うことが、そこから得られるより大きな成果につながるものと判断された故でもある。現地調査を通じてたえず直面する想定外の新たな問題を積極的に本研究にとっての参照点としつつ、研究が目指す目的を達成するべく取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に申請当初の研究計画に則って本研究をさらに発展的に進める予定である。具体的には、ベルリン、ポツダムでの調査を継続するとともに、ミュンヘンの州立図書館および博物館アーカイブでの調査、アメリカ、シカゴのイリノイ工科大学図書館所蔵になるミース・ファン・デル・ローエ旧蔵書調査、ニューヨーク近代美術館ミース・コレクション調査を順次実施する予定である。加えて、平成25年度に学術交流の機会を得たベルリン工科大学内に所在するカール・フェルスター財団の示唆を手がかりに、主として造園植栽・植生研究に携わるドイツ・アメリカの研究者ネットワークとの情報交換をさらに前進させる予定である。 また、初年度の調査を踏まえ、本研究の視座には近代における総合芸術概念の再検討という課題が密接に関わっていることをあらためて自覚した経緯から、この点についても考察を進めてゆく。ただし、基本的な調査研究手法という点では変更は生じない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画では、海外における資料調査地としてドイツとアメリカの2か所を予定していたが、ドイツでの調査に想定以上の課題を見出し、それとの取り組みに集中して一年間の調査研究を行ったため、アメリカ調査を次年度以降に見送ることとなり、その結果、当初使用予定額に残額が生じた。 次年度においても海外調査を継続して実施する予定であり、初年度に研究の進捗状況を鑑みて実施を見送った調査、ならびに初年度の調査を通じて新たに調査の必要性の生じたドイツ国内調査において有効に使用する。また本研究申請時の計画に挙げた通り、研究成果を踏まえた学術交流シンポジウムの開催に際して活用する。
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Research Products
(5 results)