2013 Fiscal Year Research-status Report
フランス中世美術とドミニコ会を中心とする托鉢修道会の関係に関する総合的研究
Project/Area Number |
25370139
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
黒岩 三恵 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 准教授 (80422351)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ドミニコ会 / 中世美術 / ルネサンス美術 / 芸術庇護 / フランス王室 / 写本彩飾 / 祈祷書 / 托鉢修道会 |
Research Abstract |
平成25年度の研究計画に沿ってパリ、トゥルーズ、アヴィニョンで資料の調査と収集を行った。パリのサン=ジャック大修道院に関しては、Millin, Montfauconらフランス大革命前に刊行された収集・研究書、学術研究論文、各種の展覧会カタログ等の二次文献の検索・確認を行い、先行研究と資料の所在の確認ができた。一次資料に関しては、フランス国内の複数のドミニコ会修道院に関する写本の調査、王族・貴顕の会計・財産記録、パリ市内の書店ほか職人層に関する記録等、13世紀から16世紀の幅広い古文書類の一覧作成を行った。 また、実際の調査により新たに発見できた一次資料として、ドミニコ会士が作成した祈祷・典礼文が14世紀後半から16世紀初頭に制作された、主として平信徒向けの私的祈祷書に独特の図像彩飾を伴って採用された写本がある。具体的には、伝トマス・アクィナス作の祈祷文「神よ我に慈悲を授けたまえ(Concede michi misericors Deus)」が、アヴィニョンの対抗教皇クレメンス7世の私的祈祷書を最古の現存作例として、ベリー公ジャン、アンジュー公ルネ、ミラノ公ジャン=ガレアッツォ・ヴィスコンティ、歴代ナポリ王やカスティリャ王等の名だたる芸術庇護者たちの為に、フランス、ついでイタリア、スペイン、ネーデルラント等で制作された美術史的に重要な彩飾写本中に、多様かつ独自の図像を伴って掲載されていることが挙げられる。これらの彩飾写本は、フランス王室とドミニコ会の関係の具体例の一つであるにとどまらず、当代の西ヨーロッパ諸国相互の複雑な関係を反映した高位貴族らの私的信仰の実践と芸術庇護との関係をより広い視野から考察することを可能とし、類例を見ないテクストとイメージの関係の考察を通じて従来の彩飾祈祷書写本の研究に新たな知見を提示するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
パリのサン=ジャック大修道院関連の資料は、二次資料を中心とした検索・閲覧を行い、比較的幅の広い資料を得ることができた。同修道院の一次資料に関しては、パリの国立古文書館が所蔵する資料を主体として関連し得る各種資料の所在の確認がなされ、今後詳細な閲覧・調査を通じて新資料の発見へ向けて各古文書の精査を行うための準備が整いつつある。 フランスを中心とする王侯の美術パトロネージに関しては、主として写本彩飾の分野において計画以上の成果を得た。14世紀末から16世紀初頭にアヴィニョン、パリ、ミラノ、バレンシア、ヘント、ユトレヒト等の彩飾写本の中心地で当代を代表する彩飾画家らの筆による祈祷書類の彩飾の調査・分析では、トマス・アクィナス図像の展開、巡礼徽章、装飾的な動植物モティーフを含む広範な画像要素と祈祷文テクストとの関係、私的な信仰活動の実践における画像の多様な機能について新たな知見を得た。 加えて、今後調査研究を進める価値がある王侯の美術パトロネージとドミニコ会の関与に関する新たな研究テーマとして、ドミニコ会が中心となって推進した典礼、なかんずく聖体の祝日の典礼について、典礼式文の確立と普及および並行する聖体図像の展開に関するある程度の資料を確認している。 以上のように、中世末期からルネサンス期にかけての彩飾写本を中心に実地調査を行うことで新たな資料の所在が確認できたばかりではなく、資料紹介を中心としながら一次段階の仮説を提示することができた。さらに、調査の過程において研究目的に合致した新しい研究のサブ・テーマを得ることもできている。
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Strategy for Future Research Activity |
パリのサン=ジャック大修道院に関連する調査と研究ならびに私的用途の彩飾祈祷書写本を中心とする彩飾写本の調査研究の二つの柱を主体として研究を続行する予定である。 当初の研究計画では、フランス王家が13世紀中葉から15世紀中葉にかけて注文した大部な挿絵図解聖書『ビーブル・モラリゼ』の一連の写本群を研究対象に加えて、フランスの王侯の美術パトロネージとドミニコ会との関係を画像とテクストの観点からさらに考察する予定であった。『ビーブル・モラリゼ』写本群の重要性は変わらないが、大部な図解聖書を加えることで、研究対象が量・質ともに拡散して焦点が曖昧になりかねないことが懸念される。平成25年度の成果を踏まえ、祈祷書写本類を研究の主たる対象とし、これらの写本と関係すると考えられる場合に限って『ビーブル・モラリゼ』を取り扱う方向に研究計画の変更を行うことが適当と判断される。こうした変更は、サン=ジャック大修道院にみるモニュメンタルな美術パトロネージに関する研究と、彩飾写本を中心とするより私的・個人的な美術パトロネージに関する研究とのバランスを考慮するうえでも望ましい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度はフランスでの在外研究を約一年間行った。研究計画では成田・パリ間の往復航空運賃を科研費の予算請求に含めたが、実際のフランス滞在中に科研費関連の調査を行った期間とそれ以外の研究調査等を行った期間の区別、整理を行った結果、科研費から成田・パリ間の往復旅費を支出することは中止した。トゥルーズとアヴィニョンの各市立図書館での彩飾写本等の閲覧に際し、資料閲覧の費用は実際には無料であった。トゥルーズ・パリ間の往復の移動には鉄道を利用したため、空路を利用する場合よりも旅費が安価となった。以上のように旅費を中心として実際の経費が低かったことが次年度使用額が生じた理由の第一として挙げられる。また、長期のフランス滞在を生かしてゆとりを持って図書館等での調査を行い得る環境にあったため、購入すべき書籍や電子画像との複製視覚資料を厳選できたことが第二の理由である。 サン=ジャック大修道院関連の資料ならびに祈祷書類を中心とする彩飾写本の調査には相当の時間を要することが明らかとなった。そこで、当初の研究計画においては約2週間としたパリにおける調査旅行を約1か月(4週間)に延長する等のより充実した調査を行う予定である。さらにこうした調査を踏まえ、平成26年度は祈祷書類の電子画像の購入を中心とする資料の複製ならびに二次資料の購入を充実させる予定である。
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Research Products
(2 results)