2013 Fiscal Year Research-status Report
イメージの記憶とアナクロニスムをめぐる歴史人類学的研究
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25370142
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
水野 千依 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (40330055)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イメージ人類学 / トポミメーシス / 図像記憶 / アナクロニスム / 主日のキリスト / キュムメルニス / キリストの顔 / ヒエロトピー |
Research Abstract |
本研究は、西洋キリスト教文化において、時代を超えてイメージが宿す記憶とアナクロニスムの問題を、ふたつの視点から歴史人類学的に考察することを目的としている。 第一は、西洋でも都市部ではなく、アルプス山間の周縁文化の図像に目を向け、宗教改革で破壊されたり対抗宗教改革の流れで検閲されるなどして「正統」な美術からは姿を消した特異な図像記憶の残存を追うものである。今回、科研費による海外調査を実施することはできなかったが、主に文献史料の調査から、これまで考察を重ねてきた「主日のキリスト」について、特異な受容様態を発見することができた。申請者はかつて、この像がさまざまな田園の聖女像やアイデンティティ不詳の両性具有像に変容することを確認してきたが、南仏ニースを中心とする山間部では、農作業道具により傷を負うキリストの身体との類似性からか、異教徒の矢に射られるペストの守護聖人セバスティアヌスと混淆する受容様態が認められ、しかも主日の労働の禁止を教えるという従来の意味を逸脱し、農作業を守護するという新たな役割を担っていたことが明らかとなった。この混淆は、この地方独自の現象と考えるべきかもしれないが、ヒスパニック系入植者によってアメリカ大陸にもたらされたキリスト教の受難劇などにもみられるもので、より広い視野から人類学的に調査する必要性へと開かれた。 第二の、ルネサンス期の古代理解におけるアナクロニスムの問題については、この時期に事後的に「古代性」と「真正性」の権威を付与されたキリストのプロフィール肖像を例に共著書および単著に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アルプス周辺地域のキリスト教聖堂の壁画研究については、今年度は、大学業務の繁忙と自身の著書執筆作業が重なり、海外調査の機会を得ることができなかった。本研究は、対象とすべき地域が複数の国を含む広範囲にわたり、いずれも辺境地にあるため、網羅的調査には本課題の補助期間を超える時間を要するとはいえ、次年度以降、地方を限定して、精力的に調査を行う必要性を強く感じている。 また、平成26年度の研究計画として挙げた課題については、キリストのプロフィール肖像をめぐって現段階での研究成果を共著書、さらに新たな知見を加えて単著の一部に公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
アルプス山間の壁画調査を行うとともに、西洋では教義上、否定されるなどしてすでに姿を消した図像の残存を理解する一助として、アメリカ大陸におけるヒスパニック系入植者のキリスト教美術や聖史劇を視野に入れ、比較を試みる。そのために、ニューメキシコ、アリゾナを中心に現地調査を予定している。加えて、この方面で示唆深いカルロ・セヴェーリの人類学的研究の邦訳を出版を見据えて進めていく。 さらに、ルネサンス期における古代理解を中心とするイメージのアナクロニスムの問題については、新たなテーマとして、聖像を用いた宗教行列や、権威を認められたイメージとそれを演出するパラテクスト的装置から形成される空間を模倣する「トポミメーシス」ないし「神聖空間の複製」の問題を、古代異教の像儀礼や配置の問題まで視野に入れつつ考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、大学業務・著書執筆等の多忙さからまとまった海外出張の時間がとれず、予定していた海外調査の機会を逸し、旅費を執行できなかった。 平成26年度は、アルプス山間部の図像調査と、アメリカ大陸におけるヒスパニック系移民のキリスト教図像研究のため、二度の海外調査を予定している。今年度、使用できなかった助成金を、このための旅費に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)