2014 Fiscal Year Research-status Report
イメージの記憶とアナクロニスムをめぐる歴史人類学的研究
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25370142
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
水野 千依 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (40330055)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イメージ人類学 / トポミメーシス / 聖像儀礼 / 図像記憶 / アナクロニスム / 主日のキリスト / ヒエロトピー / 聖遺物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、西洋キリスト教文化において、時代を超えて図像に宿る記憶とそのアナクロニスム的な現われを、ふたつの視点を軸に歴史人類学的に考察することを目的としている。 一つは、西洋でも文化的に発展した都市部ではなく、アルプス山間の小村や古びた街道沿いに佇む礼拝堂等に描かれた図像の特異性に注目し、宗教改革や対抗宗教改革において「異端」「逸脱」とされ破壊対象となりつつも残存してきた希少な作例に、時代をさかのぼる、時には別の宗教ともかかわる図像の記憶が残存する現象を探求するという視点である。今回、海外調査を実施することができず、収集した文献を中心とする研究にとどまったが、比較例としてニューメキシコのヒスパニック系入植者のもとに見られる類似する現象に関するC・セヴェーリの著作『Il Percorso e la Voce』の翻訳作業は、訳自体はほぼ終えることができた。遅れている現地調査については、2015年度の主要課題としたい。 もう一つの視点は、ルネサンス期の古代理解におけるアナクロニスムを問うものである。これについては、トスカーナ地方で当時、格別の崇敬をうけていたインプルネータの聖母やフィレンツェのサンティッシマ・アヌンツィアータ聖堂《受胎告知の聖母》等を中心に、像を演出するタベルナクルムやマンテッリーニなどのパラテクスト装置から形成される空間が、権威ある既存の礼拝像を演出した空間構造や場を模倣するトポミメーシス的性格を有していたこと、またその際、古代にまで遡る建築的配置が意図された可能性を探り、地中海学会大会シンポジウムで発表するとともに、論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アルプス周辺地域のキリスト教礼拝堂の壁画調査、およびアメリカ大陸におけるヒスパニック系入植者のキリスト教美術や受難劇の調査、いずれについても、大学業務の繁忙(とくに学科長業務)や、自身の体調の問題、さらに所属大学の異動(2015~)にまつわる諸手続きにより、思うように進めることができなかった。 一方で、平成26年度の研究計画としても挙げた、キリスト教の表象をめぐる根源的問題である「キリストの顔」については、単著『キリストの顔――イメージ人類学序説』を出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、実現できなかったアルプス山間部の壁画調査を行うとともに、関連文献の徹底的な分析から「主日のキリスト」についての研究成果の一部を論文の形でまとめたい。 また、それとの関係で比較対象としたいニューメキシコの図像記憶の問題をめぐるカルロ・セヴェーリの著作の翻訳出版を進める予定である。 さらに、ルネサンス期における初期キリスト教リヴァイヴァルやアナクロニスムの問題については、とくにトスカーナ地方の礼拝像にみられるキリスト教古代の建築的要素や演出の空間性を模倣するトポミメーシスという問題をさらに掘り下げたい。この問題については、国内外のシンポジウムにて発表する予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、大学にて芸術学科長を務めることとなり、予定以上に業務が繁忙となった。さらに著書の執筆・出版、年度末には所属大学の異動、さらに体調不良等により、思いのほかまとまった時間を確保することができず、予定していた海外調査の機会を逸し、旅費を執行することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、予定していたアルプス山間部の壁画調査を実施するに加え、トスカーナ地方、特にフィレンツェと関わった都市郊外や田園の聖母礼拝像をある程度まとまった形で調査する予定である。 今年度、使用できなかった旅費を、これらの調査のために充てる見込みである。
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Research Products
(3 results)