2014 Fiscal Year Research-status Report
江戸幕府による自然史科学の萌芽と御用絵師の役割に関する研究
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25370150
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
小野 真由美 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, 主任研究員 (90356270)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 近衛家 / 近衛家熈 / 花木真写 / 陽明文庫 / 狩野探幽 / 狩野常信 / 渡辺始興 / 錦小路頼庸 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に行った狩野探幽と狩野常信の写生図の調査をふまえて、本年度は常信と交友のあった京都の公家・近衛家熈に着目した。まず、家熈の日記『家熈公記』や、その言行を記録した山科道安著『槐記』などを精査し、さらに京都・陽明文庫所蔵「花木真写図巻」(近衛家熈作)三巻などを調査した。『家熈公記』『槐記』などの精査によって、家熈が本草学や名物学を究めるなかで、『和名類聚抄』(源順・平安時代)、『本草綱目』(李時珍・明時代)に依拠していたことを指摘するとともに、「花木真写図巻」の調査から、家熈がドドネウス著『草木誌』のような西洋の植物図の影響をうけていた可能性をみいだした。また、当時の蘭学洋書の受容状況からみて、家熈の外来の植物への関心は、親戚関係にあった徳川将軍家、水戸藩、薩摩藩、津軽藩との交流によって形成されたふしがあり、植物図譜の嚆矢と謳われる「花木真写図巻」とは、徳川将軍家や諸藩、および探幽・常信といった御用絵師の写生図が何らかの契機になっていることをみいだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、陽明文庫所蔵「花木真写図巻」三巻の全ての画像を撮影し、データベース化することができた。これは美術史、歴史学、博物学、自然史などの諸分野の研究に資するものである。前年度は、江戸初期における自然観察の事例として狩野探幽、常信を調査したが、本年度の調査によって、探幽、常信の直接的な影響が、江戸中期にいたって、「花木真写図巻」へと及んでいることを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査によって陽明文庫所蔵「花木真写図巻」が、公家文化に立脚しながらも、新たな西洋からの知識をとりいれていることを指摘できた。そしてそこに幕府や御用絵師が関わったこともみえてきた。今後は、狩野探幽や常信、そして近衛家熈の人的ネットワークの解明を課題とし、とくにドドネウス著『草木誌』との関連から幕府重臣・稲葉正則について調査していきたい。また常信の写生図との関連から、日出藩・木下家、大洲藩・加藤家などについて調査をすすめていきたい。そして、幕府周辺の本草学の興隆との関連から、水戸藩・薩摩藩などの史料を調査していきたい。
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Causes of Carryover |
狩野探幽の原画を写した「鳥写生図巻」が大英博物館に所蔵されており、使用計画では本年度に調査を行う予定であった。しかし研究の進捗状況にしたがって、陽明文庫所蔵「花木真写図巻」の調査を優先的に行ったため、時間的な都合から次年度へ見送ることとなった。そのため大英博物館の調査費用が消化できず、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、探幽原本の鳥写生図(模本)の調査の重要性に鑑み、すみやかに調査を行うこととする。
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Research Products
(3 results)