2013 Fiscal Year Research-status Report
古代ローマ工芸美術の基礎的研究 ~テッラ・シギラタについて~
Project/Area Number |
25370152
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
向井 朋生 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, リサーチフェロー (30620463)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 美術史 / 工芸史 / 考古学 / 古代ローマ / 地中海 / 多国籍 |
Research Abstract |
本年度は古代ローマの精製土器の一種であるテッラ・シギラタに関する諸外国の基本文献の分析に加え、我が国におけるテッラ・シギラタに関する研究を取り巻く現状について調査した。我が国においてこの土器自体についての研究は存在しないが、それに関する記述は以外なほど多く存在する。具体的には、西洋史や考古学分野の学術論文、遺跡発掘報告書、一般歴史概説書、歴史辞典、美術辞典、展覧会カタログなど多岐にわたる。研究代表者は日本語文献を精査しテッラ・シギラタおよびその派生土器について我が国でどのように紹介されているかを調べた。対象とした項目はその名称、解説、紹介されている学史であり、執筆者が判明している場合には執筆者の専門分野及びそのバックグラウンドも記録した。 その結果、本研究に取り組むきっかけとなった、テッラ・シギラタにおける混迷の原因である表現と用語の未統一について状況整理することが出来た。我が国におけるテッラ・シギラタの紹介は海外文献からの翻訳を主とするものであることは当初から予想されていたが、各執筆者が参考にする言語によって日本語で紹介される内容が大きく異なることがあらたに明確になった。例えば「テッラ・シギラタ」を「サモス焼き」と記してある場合には、その執筆者は英語文献、特にイギリス研究者の記述を参照していることが分かった。また、ほとんどの執筆者が古代土器について門外漢であるため、専門用語が意訳されている箇所も多く混乱に拍車をかける元になっていることも事実である。 比較精査の結果、数少ない学術論文における概説的な記述よりも、イタリア語の考古学辞典から転用されたとみられる、大型辞典におけるわずか十数行の記述が現時点におけるテッラ・シギラタの日本語情報として最も間違いのないデータを構成していることが判明した。このように状況整理することによって、本研究の有用性と必要性が再確認されたと言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度のテッラ・シギラタ研究の文献からのアプローチに関しての達成度は十分であると言える。国内の多岐な資料および、国外の基本文献を押さえることが出来た。 進捗状況の遅れは専ら予定されていた海外現地調査が出来なかったことに由来する。 さらに研究代表者の参加が予定されていたチュニジアの遺跡におけるローマ時代土器調査が、関係者の事情によりソルボンヌ大学が2011年以降主催していた調査プロジェクト自体が継続中止になるという、個人的には不可避のアクシデントもあった。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度は予定されている海外現地調査に加えて、本年度に実現しなかった海外現地調査を加えて行う。これにより、実際のテッラ・シギラタの幾つかの重要なカテゴリーにおいて製品・窯・工房の状況を実見することが可能になる。このことは、文献から得られた情報と、研究代表者が現在までに地中海における消費地遺跡の調査において得られた知識を結びつけて体系化するために重要な工程を成すものである。 文献調査については、本年度おさえた海外基本文献以外の、より専門的で多様かつ些細な文献の収集も継続して行われる。 我が国の歴史学においてテッラ・シギラタが古代経済を語る場合の指標(特に古代ローマ帝国各地域の繁栄と没落を示す資料として援用が主である)、の一つとして使われる際には依然として欧米における20世紀前半の総合研究の影響下にある。したがって、近年の研究成果を専門外の研究者にも分かりやすく説明することにより、テッラ・シギラタが歴史資料として我が国において有効活用される下地作りに貢献する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度予定していた海外現地調査を行えなかったことから、次年度使用額が生じた。 来年度は研究の推進方策にあるように海外現地調査に重点を置くことにより活用する。
|