2015 Fiscal Year Research-status Report
天然有機赤色顔料の資料集成と体系化-古典に学んだ堅牢な絵具の実現を目指して-
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25370161
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
作間 美智子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (80644773)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 天然赤色レーキ顔料の製造 / 天然カーマインレーキの色調 / 天然レーキ顔料の耐光性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究において、初年度には赤色レーキ顔料に関する文献調査を行った。その結果、顔料作成が可能な具体的な記述を持つ文献が少ないことがわかった。そのなかで合成顔料が登場する直前の19世紀の文献が最も適当であったのでこれらを訳出した。また、隠れキリシタン遺物の洋風画の観察調査も行ったが、これまで17世紀に日本で描かれた油彩画とされていたものが、実際には油と水性の卵の媒剤を混合した混合テンペラではないかと思われた。染料の抽出液をそのまま描画に利用できる東洋画とは異なり油絵の場合、油と練り合わせるには顔料とする必要があったことを今更のように気づかされた。このことを保存修復学会にて発表した。 次年度には訳出した処方に基づき、顔料作成の実験を行った。西洋絵画における代表的なレーキ顔料の材料で、現在も産業に利用されているコチニールを用いた、カーマインレーキ作成に特化した。その結果、想像していたよりもカーマインレーキの色調が紫がかっていることがわかった。実験でできた数種類の顔料を媒剤と練り合わせ、水彩、油彩、テンペラ、膠の絵具とし、サンプルを作成し、処方による色調の違いを確認した。これを保存修復学会に発表した。 昨年度は、天然レーキ顔料の最大の欠点は耐光性のなさとされているため、作成したサンプルで劣化実験を行った。すぐに色味が飛んで淡色化するものという予想に反して、赤みは飛ぶ傾向はあるものの予想以上に色味は残っていることがわかった。また、絵具の種類(媒剤の違い)によって劣化の程度が異なることもわかった。水性の絵具では顔料が表面に露出し直接紫外線に晒されるため、劣化が激しいと予測していたが、実際は、顔料が油の塗膜に包まれた状態の油絵具がもっとも劣化の度合いが大きかった。この実験の結果を分光分析し、目視とあわせて今年度の保存修復学会で発表の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究会メンバーの本人や家族の病気、死亡が重なって、集合することがなかなかかなわなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
劣化実験の結果を検討し、油絵具の劣化が水性の絵具の劣化よりも大きかった原因を解明し、耐光性の改善を図り、実用化をめざす。 数種類の処方に基づいて作成した顔料の色味の違いが何によっておこるのか、材料やその分量の違いを比較、検討する。 続行中の文献調査をすすめ、これらをまとめてゆく。
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Causes of Carryover |
前年度に研究会メンバーの家族等が重篤な病気になり、研究会や実験が進められなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
堅牢な顔料製造のための実験と文献収集、これらのまとめのための作業に使用予定である。
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