2013 Fiscal Year Research-status Report
戦前ドイツの前衛芸術研究--ハンナ・ヘーヒを中心に
Project/Area Number |
25370183
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
香川 檀 武蔵大学, 人文学部, 教授 (10386352)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 表象文化論 / 美術史 / ジェンダー論 / 前衛芸術 / 写真 / ダダイズム |
Research Abstract |
まず調査の中軸となる、ダダとその周辺に関する資料収集を集中的に行なった。具体的には、ベルリン・ダダが刊行した機関誌や関連文献の収集、およびドイツとアメリカで発表された90年代以降の博士論文など購入した。国外では、国際美学会に出席して関連した研究発表の討議に参加したほか、ドイツ・フランクフルトの美術館において戦前・戦後のダダを結ぶ展覧会を視察し、資料を入手した。 さらに、本学において2回の研究会を開催した。11月9日には、東京都現代美術館の主任学芸員の関直子氏を招き、日本の前衛美術に関わった桂ゆきの研究会を行なった。桂ゆきは、コラージュ技法を早くから採用した画家として知られ、戦前、戦後にわたる技法の多様性は、ヘーヒの技法や、制作手法の研究と比較するうえで非常に参考になった。さらに12月21日には、戦前ドイツの前衛思想について著書『美学から政治へ』を上梓した石田圭子氏(神戸大学専任講師)ならびに、コメンテーターとして田中純氏(東京大学教授)を招き、書評会のかたちで研究会を開催した。形態の分割と再統一というパラダイムのなかで、統一的身体イメージとしての「ゲシュタルト」が想像的な共同体イメージとなって政治と結びついていく過程を中心に議論を深め、ダダの政治性を考察するうえでの美学理論と文化研究の方法論を考察した。 以上の研究活動を踏まえたうえで、ハンナ・ヘーヒが1930年代に制作した写真アルバムいついて論文を執筆した。(『武蔵大学人文学会雑誌』第45号第4巻)。これは、1920年代から30年代にかけてのドイツの写真メディア環境を背景に、前衛芸術の側からの対抗的なイメージ思考と、その問題点をあぶり出したもので、今後の研究への足掛かりとなるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画では、①戦前ドイツの前衛運動とダダに関する資料収集と作品研究 ②ハンナ・ヘーヒのアーカイヴ調査、③ドイツをはじめとする海外の研究者との交流、の3点を目標としていた。 ①の資料収集と作品研究では、充実した成果を挙げることができ、近年のダダ再評価に関する研究書(フォトモンタージュや前衛演劇など)をはじめ。アメリカ合衆国で1990年以降に発表されたダダ関連の博士論文を収集することができた。また、ベルリン・ダダが活動の一環として出版した刊行物のオリジナル(第3版)なども入手でき、ダダの表現技法(とくにフォトモンタージュ・コラージュ)について、創造的な側面を研究することができた。ハンナ・ヘーヒの作品研究としては、彼女がダダ期以後に制作した写真スクラップ帖をとりあげ、アメリカとドイツで発表されている研究書を手掛かりに、論文を執筆した。また、今夏に執筆予定のベルリン・ダダ論のために、1920年代ベルリンの都市論と絡めた前衛芸術論・ダダ論を構想し、亡命ロシア人芸術家とベルリン・ダダとの関係などについて目下、文献研究を行なっている。 ②のアーカイヴ調査については、昨年夏にポーランドの国際学会に出席したため時間がとれず、今春に延ばしたが、それも校務のため出張が叶わなかった。同アーカイヴが刊行したヘーヒの資料集を読み、調査する重点を絞ってから、今夏にはぜひ実施したい。 ③海外の研究者との交流については、ベルリンの州立現代美術館のアーカイヴ学芸員や、フランクフルト歴史博物館の写真アーカイヴ学芸員らと連絡をとりあい、情報交換を行なっている。研究期間中に招聘する海外研究者の候補は、まだ確定しておらず、引き続き検討を行なっていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
国内での文献研究と論文執筆、および海外での作品・アーカイヴ調査の2点を柱とする。 前者については、まずダダおよび戦間期ドイツの前衛芸術について、資料収集と文献調査を継続する。ダダ再考の論点を掘り下げるためにも、関連文献の研究が依然、重要である。当面は、とくにコラージュ・フォトモンタージュの技法に関する文献を系統的に読み、メッセージ性と造形実験に関する議論を整理したい。この論点を中心に、外国人芸術家およびドイツのダダイストの「移動・越境」について触れたベルリン都市芸術論を秋までに執筆する。これは、1910~30年代の美術家たちの国際的な交流と影響関係をあきらかにする意義をもつ。 後者の海外調査は、平成26年度の重点課題として、今夏に予定している。国内では入手の困難な文献資料の収集のほか、ベルリン州立現代美術館のハンナ・ヘーヒ・アーカイヴで調査を行う。あわせて、同美術館が所蔵しているダダ関連の作品の実見も行う。また、収集した資料の整理も並行して行い、ダダ研究の基盤となるような資料集成を作成する。とくに、申請者が過去にドイツの現地調査で撮影したダダ関連の作品写真のネガやポジフィルムが大量に存在しているため、これをデジタル化して保存することも検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の夏にドイツを中心とした海外調査を予定していたが、ポーランドでの国際学会に出席したため、それ以上の出張をとることができず、実施できなかった。年度内の春休みに出張を考えていたが、これも校務のため実現できなかった。最低、一週間から10日ほどのドイツ取材のために計上していた旅費が、大幅に残ってしまった。 次年度(26年度)には、8月の夏季休暇を利用して、充実した海外調査を行う予定であり、その際の旅費および資料収集のための物品費として使用する。 具体的には、ベルリンに1週間ほど滞在し、美術館とアーカイヴ、および美術図書館などの調査を行う。また、その前後に、ドレスデンやケルン、デュッセルドルフなどの諸都市で、美術館を視察する。
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Research Products
(8 results)