2013 Fiscal Year Research-status Report
昭和四〇年代日本のポピュラー音楽の社会・文化史的考察
Project/Area Number |
25370199
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
磯前 順一 国際日本文化研究センター, 研究部, 准教授 (60232378)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 章一 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (40135603)
細川 周平 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (70183936)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 大衆芸術 / メディア芸術 / エレキ音楽 / 情動 / 天皇制 / ナショナリズム |
Research Abstract |
昭和四〇年代は、ベンチャーズやビートルズという欧米のポピュラー音楽グループの影響によって、日本においてグループサウンズというポピュラー音楽が隆盛を極めた時期であった。この日本におけるロック・ミュージックの導入の先駆をなす時期に焦点を据えることで、現代民衆史・大衆社会論として日本の戦後社会の転換点(経済繁栄を謳歌した昭和元禄から、社会的異議申し立てを伴った学生運動への転換期)にあたるこの時期を、社会・文化史的側面から考察を深めていく。特に現代思想や宗教学の分野で脚光を浴びる「情動affect」あるいは「魅了する力attraction」として、大衆音楽から戦後社会の社会・文化史的な側面に音楽から迫ることを目的とする。この点で従来の民衆史や大衆社会論が概念的・理論的な側面からの社会分析のみにとどまりがちであったのに対して、音楽史と結合した宗教学の議論は、社会と人間の理解を感情の深部から捉えなおす身体実践の次元に射程を置いたものとなる。 H25年度はタイガースの活動の歴史に主眼を置き、メンバーの出会いから、解散までの歴史を明確に把握した。そのうえで、昭和四〇年代の日本社会の動きと連動させながら、彼らの活動がポピュラー音楽の面だけにとどまらず、戦後日本社会が敗戦のショックから立ち直り、天皇制ナショナリズムと大衆化社会のもとで国民のアイデンティティを再確立していった軌跡を明らかにした。それは、西欧のポストモダン哲学に対応する日本社会のひとつの応答であり、米ソの冷戦構造の下でのポスト植民地状況の日本的な表出のかたちであったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2013年にザ・タイガースの再結成が計画され、そのプロジェクトに携わることができた。しかも、その再結成が社会的に大きな話題になったため、日本ポピュラー音楽史のジャンルやメディアでタイガース並びに当時のポピュラー音楽に関する関係者の発言が頻出し、同時に資料の再発掘が進んだ。そのため、当時の基礎資料の収集を当初の予定以上に進めることができ、事実確認も行うことができた。その結果、関係者からの大きな協力を得て、拙著『ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた』(集英社)を出版することができた。さらに、その出版が話題を集め、いくつもメディアで取り上げられたために、ファンからの当時の音楽状況に関する情報提供が進んで行われた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、近代日本の社会・文化状況に対する研究を進める。その中で、戦後の日本の国民国家がどのように形成されてきたのか、天皇制ナショナリズムの分析、さらには戦前に遡って帝国主義の問題を検討していく。その中で、国民国家並びに帝国における公共圏形成の問題を考察し、国民がナショナル・アイデンティティにどのようにコミットしていったのか、またその一方で、そこに抵抗の根拠を見出して行くのか、その力動的過程を考えていきたい。その抵抗とコミットメントの両義性を持つ文化的要素として、タイガースに見られるようなポピュラー音楽を捉えていきたい。 その中で、戦後の天皇制ナショナリズムと音楽などの文化的な営みの関係を再考していく予定である。こうした視点からすれば、戦後における国家神道や皇室神道の形成過程の分析も、音楽と同様に儀礼的実践を通した国民的主体形成の回路として、大きな研究課題になってくる。
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