2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370203
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
秋山 佳奈子(吉森佳奈子) 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10302829)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 『河海抄』 / 『源氏物語』 / 年代記類 / 『帝王編年記』 / 『三教指帰』注 / 契沖 / 本居宣長 / 『湖月抄』 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は、本研究課題による研究の二年目にあたるため、基礎研究に力を注ぐ一方で、研究課題を深め、より発展的に独自の視座をひらくことを目ざした。成果として、「注釈史のなかの『河海抄』」、「注釈史のなかの『河海抄』―『首書源氏物語』をめぐって―」、「漢字による和語の注の空間と『河海抄』」の三篇の論文を発表し、さらに掲載が2015年度となった論文一篇があることに加え、本研究課題による成果が注目されたことによりシンポジウム招待発表者としての参加をひかえる。 善本はないと指摘される『河海抄』の複雑な異文状況が、同時代の歴史認識の問題と不可分に生じたものであることを解明する研究として、2014年度は、書写によって書物が伝承される時代の次にくる段階として、日本ではじめて出版文化を育てた近世の、ゆたかな文化的達成のなかであらわれた、『源氏物語』本文を全文あげた注釈書、『首書源氏物語』、『湖月抄』に注目し、前代の注釈書類がどのように生きていったかという問題について考察した。 具体的には、昨年度の、中世の古辞書類に注目した研究成果をひきつぎながら、出版文化の時代を生きた国学者の研究がどのように成りたったかという問題として考察を深めた。中世の注釈書類に見られる、和語に漢語をあてる注のひろがりを、近代以降の研究はうけつがなかったが、これを『源氏物語』注釈史が依拠した教養の空間の問題として解明、さらにそれが、これまでも本研究課題において提起してきた、六国史で正史が断絶した日本において、歴史認識はどのようにつくられていったかという問題に繋がってゆくありようを考察した。 さらに、従来の研究で殆ど注目されることのなかった、『源氏物語』注釈史と『三教指帰』注釈史のかかわりにかんする研究を始発させた。『三教指帰』注釈史への注目は、これまでの自身の研究の視座を対象化し鍛えなおす機会としても有益であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度の研究で、『河海抄』の漢字による和語の注が古辞書類、歌学書等に引用されてひろがりをつくってゆく状況を具体的に検証して論文三篇のかたちで成果を問い、評価され今後の研究に繋いでゆくことができた。さらにこの視座を鍛え、従来の文献学的な方法に終始するのではない『河海抄』の伝本研究の可能性をよりすすめてゆきたい。現状ではその重要性にたいする具体的な研究が不充分であるため、ひきつづき、詳細かつ発展的に継続し、論文のかたちで成果を問い得るまで検証を行ってゆく。 とくに研究のまとめに向かうにあたり、中世末期の伝本状況に加えて、近世の出版文化のなかの写本研究にも範囲をひろげてすすめてゆきたい。閲覧、複写の許可に時間がかかること、研究上必須の『源氏小鏡』近世版本の購入にかかわる事情等についての見こみが充分でなかったことは反省点である。研究の最終年度には閲覧、複写の許可にかかる時間を正確に見こみ、可能な限り効率的に研究をすすめることをめざす。 『源氏物語』注釈史と、『三教指帰』注釈とのかかわりについては、対象となる作品がまったく異なるジャンルであるために、従来指摘がなかった問題であるが、古い段階の『三教指帰』注釈と『河海抄』とのあいだに具体的な影響関係にあることを確認し、その成果を論文として発表することができた。ひきつづき検証をかさね、研究の最終年度に継続してすすめ、まとめとなる成果を発表してゆきたい。また、『首書源氏物語』、『湖月抄』等、出版された『源氏物語』注釈書にかんする研究を三篇の論文のかたちで問い得たが、それらと、開板された『三教指帰』注釈とのかかわりについて、さらに精緻な検証をすすめてゆく計画である。そのことは、出版文化のなかの『源氏物語』注釈を考えるうえで有益な視座の提起となる見通しを得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は、研究計画最終年度にあたるため、研究のまとめとして、文献学の方法による『河海抄』の本文研究に力を注ぐ一方で、前年度の、『源氏物語』注釈史が依拠したものを具体的に考える研究を継続し、『三教指帰』の注釈史をひきつづきとりあげ、『源氏物語』注釈と歴史認識の生成、教養の基盤の問題について考える。 まとめの研究の第一として、『源氏物語』の全巻注釈書、『河海抄』所引の歴史記述に注目し、物語が歴史によって注釈されることの問題のひろがりを考え、教養の基盤、歴史認識の生成について探求する。 研究の第二として、『河海抄』に特徴的に見られる、『源氏物語』中の言葉(和語)に漢字をあて、出典を記すかたちの注に注目する。それらが、歴史書を出典とする言葉として中世の古辞書類に見られ、さらに同じように近世の重宝記等のなかに生きつづけることで、一覧型、便覧型の年代記類等、実際に人々に用いられていた歴史書の空間におよんでゆくことの意味を考える。なお、昨年度の研究をとおして、それ自体類書といわれる『三教指帰』に注目し、『三教指帰』注釈史と初期の『源氏物語』注釈がかかわりをもつことによる問題の見とおしを得たことから、『三教指帰』注釈史の研究を行ってゆくことを研究の第三としたい。 研究の第四として、研究年度をつうじて行ってきた『河海抄』本文研究の成果をもとに、従来の文献学的方法のなかに閉ざすのではない、『源氏物語』、『源氏物語』注釈が実際に生きていた空間から本文を見きわめてゆく方向性を提案してゆく。 これらの研究にかんしては、主として学会誌等に論文を投稿するかたちで、本研究の成果を問う。また、とくに、上記研究の第一、第二、第三については、本年度の筑波大学、同大学院における講義、演習内容ともかかわるため、随時研究成果を教育の場に生かしてゆくことを心がける。
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Causes of Carryover |
天理図書館に依頼中の『河海抄』近世写本四点の複写が、当該年度中に届かず、次年度使用となったため。宮内庁書陵部、東山御文庫蔵本の閲覧許可が、宮内庁侍従職の管轄下にあるため通常より手続きに時間が必要で、謝礼および複写にかかわる費用が、次年度使用となったため。 研究上必須の『源氏小鏡』および年代記類近世版本の購入(古書業者による版本の手配)に予測をこえた時間がかかり、次年度使用となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主に以下の費用に充てる予定である。 天理図書館に複写依頼中の『河海抄』近世写本四点の購入(一点約35万円)。宮内庁侍従職に閲覧許可依頼中の東山御文庫所蔵本の閲覧に伴う謝礼およびフィルム複製費。『源氏小鏡』近世版本の購入。
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Research Products
(5 results)