2015 Fiscal Year Annual Research Report
占領期ローカルメディアに見る文学者・出版関係者のネットワーク形成に関する研究
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25370205
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大原 祐治 千葉大学, 文学部, 准教授 (40554184)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 近・現代文学 / メディア研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度にあたる今年度は、すでに調査の完了していた「月刊にひがた」(新潟日報社)について、復刻版の刊行(三人社、2015~2016年)が決定しことを受け、改めて当該雑誌の刊行経緯について、特に編集に参与した関係者に関する調査を行った。 その結果、戦時下に東京や九州で同人誌活動を展開していた若手文学者が、出征・帰還や疎開などを経て新潟にたどり着き、戦後に地方新聞・雑誌の編集に従事することになっていった経緯の詳細を把握することができた。こうした人々が、それぞれの人脈を駆使して紙面/誌面を構成していった結果、地方を母体に編集され流通していく地方雑誌であるにもかかわらず、狭義の地方性の中に綴じることなく、他の地方との連携を強く窺わせるメディアが存在していた、占領期に特有の出版事情が可視化された。 また、副次的な成果としては、敗戦直後における書籍流通量の圧倒的な不足を補うものとして地方雑誌の刊行に加え、貸本屋文化が広がりを見せていた状況について研究する端緒をつかむこともできたということも挙げられる。久米正雄・川端康成・高見順らが戦時下に開始した「鎌倉文庫」のノウハウが地方へと移植された事例も見つかったが、こうしたことから見えてくるのは、占領期の文学を単にその内容に関する考察を行うのみならず、編集に関する人的交流や書籍の流通といった側面からも捉え返すことの重要性である。 敗戦直後の地方における出版事情に関しては資料が散逸しており、その全容を把握することは難しい。このたびの調査・研究によって掘り起こしたのは氷山の一角であり、積み残した課題も多いが、幸いにして本研究課題を発展させた基盤研究B「占領期ローカルメディアに関する資料調査および総合的考察」(2016~2020年度)が採択された。研究分担者・連携研究者と協力しながら、引き続き調査・研究を進めていく予定である。
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