2015 Fiscal Year Research-status Report
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25370212
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
渡辺 秀夫 信州大学, 人文学部, 名誉教授 (90123083)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 勅撰和歌集 / 和漢比較文学 / 礼楽思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、これまでの3年間に亘る儒教的な「礼楽」の思想的背景基盤・思考の枠組みへの着目が、新たな研究視界を開き、この研究手法の重要性が再認識されることに伴い、(1)古典研究には、テキストの分析者側に、作品成立当時の思考法(暗黙の前提的思想基盤)の復元的共有が不可欠であること、(2)従来の研究手法上の限界であった、明示的に典拠を指摘しがたいもの、典拠・素材論では届かぬ受容論にどう向き合うかという課題解決のため、前近代の思考の枠組みの通時的・共時的復元理解を俟っての、古典テキストの注釈・解読のための基礎研究の重要性がより明晰に浮かび上がって来た。そこで、(3)フォーマルな勅撰和歌集のケースとは対照的な、より通俗的な物語文学の領域に対象範囲を広げ、出典・材源の個別的・書承的な検出だけでは克服できない古典テキスト解釈上の困難を克服するためには、本研究で推進してきた手法が極めて有効かつ不可欠のものであるとの確信を強めた。その試論の一端は「『竹取物語』を読みなおす――神仙ワールドの復元的共有――」(2015年度和漢比較文学会大会)で述べた。2、『古今集』真名序を規範とする和歌勅撰の思想的背景解明のための歴代真名序の注解作業のうち、これまで不十分であった『新古今和歌集』~『新続古今和歌集』真名序注の第二次手稿を作成(未定稿)。このほか、3.(1)和歌表記と密接な関係をもつ仮名文字の成立過程に関し、新出の「なにはづ」木簡(9世紀後半)を実見し平安前期の仮名文字の使用様態に関する新たな知見を得(京都市埋蔵文化財研究所)、(2)清涼殿及び紫宸殿の内部等を実地に拝見し、専門官から詳細な説明をうけるとともに、他分野の研究者との討議を通じ、宮廷儀礼や政務の在り方について、貴重な知見を得た(京都御所)ほか、(3)平安朝漢詩文に関する研究会等に参加し、和漢比較分野における研究交流及び資料調査等を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所期の目標のおおよそを達成しているが、なお、補完的に調査確認すべき点、及び一部真名序の注釈作業等の遅れがある。と同時に、古典テキストと思想の問題を扱うには、勅撰和歌集のみならず、その他のジャンルに関しても考察を広く及ぼす必要性を痛感してきており、本課題の発展形としてのあらたな研究手法の開拓のための試論的検証を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.礼楽思想に基づく東アジア圏における近似の類例の発掘のための準備を鋭意模索中で、これに関しては、28年度中に実施調査を行いたい。なおこれと並行して補完的な検証事項として、儒教的な世界観を共有しない中世ヨーロッパの事例についても、王が主宰又は管理するアンソロジーの存在の有無やその形態等に関する事例を継続して調査する。2.本研究課題の遂行により得られた知見によれば、古典研究には、テキストの分析者側に、作品成立当時の思考法(暗黙の前提的思想基盤)の復元的共有が不可欠であることが一層明確化されてきたので、新規課題への発展的接続に資するべく、ジャンルを越えた新たな研究手法開発のための検証を継続する(「『竹取物語』の漢文世界―物語文学における典拠・材源論に向けて―」2016年度中古文学会春季大会口頭発表予定・於早稲田大学・5月22日)。
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Causes of Carryover |
国外調査研究として予定していた計画が、事前の調整準備等の不調により実施できなかったことにより、予算に余剰が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、来年度(最終年度)の出張(ワルシャワ大学及びハノイ漢喃研究院予定)等及び物品購入計画に適切に反映させることとする。
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