2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370220
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
新城 郁夫 琉球大学, 法文学部, 教授 (10284944)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 戦後沖縄文学 / 思想史 / 非暴力抵抗 / 共生 / 阿波根昌鴻 / 人種主義 / 岡本恵徳 / 屋嘉比収 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実績の最大の成果は、著書『沖縄の傷という回路』岩波書店の出版をあげることができる。この書の刊行は、当課題研究の中間報告的意味を持つと同時に、研究の軸となる戦後沖縄文学を思想史的視点から研究していく方向性を明確に打ち出している点で当課題研究成果の中核を担うものと言える。 とくにその成果は、書き下ろし論文である同書の「序 生のほうへ」で明らかといえよう。この論考において、戦後沖縄文学を思想史的視座から検証する際もっとも重要な軸となる、阿波根昌鴻―岡本恵徳―屋嘉比収―崎山多美という表現者の思想的系譜を、特に共生の思想の身体化という点において論述しえている点が成果と言える。この中で、崎山多美を読む岡本恵徳を屋嘉比収が読むという思想のリレーの核心に阿波根昌鴻の言動の再記憶化と想起があり、この連動のなかに戦後沖縄文学の思想史的位相を明らかにしえた点に当該論文の独自性がある。なお、この論を含む『沖縄の傷という回路』は、図書新聞や京都新聞あるいは沖縄タイムスあるいは月刊『みすず』などで好評をもって取り上げられている。 次の成果として、論文「『掟の門前』に座り込む人々ー非暴力抵抗における『沖縄』という回路」(『現代思想』2014年11月号)を挙げることができる。この論文においても、やはり戦後沖縄文学を思想的視座から再考する点で重要となる阿波根昌鴻の『米軍と農民』を軸に、非暴力的抵抗が有する文学的かつ倫理的想像力が、思想としての力をいかに形成しうるかを、ミシェル・フーコーの人種主義に関する理論とジュディス・バトラーの暴力への批判的考察を参照しつつ詳細に論じ、当研究課題についての成果を明示することができた。以上が、今年度の主たる研究成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では前年度に引き続き収集した資料に基づき、沖縄内外での戦後沖縄文学の思想史的考察を論文化していくことを目的としたが、論文2本の発表と『沖縄の傷という回路』の出版を鑑みれば、当初の目的以上の達成があったといえる。 しかし、当初の目標としていた、日本本土における戦後沖縄文学に関する思想史的考察は十分な成果をあげられていない。この点を差し引いて、全体として、「おおむね順調に進展している」という自己評価とする。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方法として主軸となるのは、これまで通り、戦後沖縄文学関連と思想史関連の文献資料の調査収集と、この文献を読み込んで行く作業を同時並行的に進めていく研究実践である。 具体的に言えば、大江健三郎や中野重治あるいは鹿野政直といった戦後沖縄文学および思想に関わる重要な表現者の文学思想的考察について、急ぎ文献資料調査収集にあたり、同時に、阿波根昌鴻や岡本恵徳といった、沖縄を活躍の場とした運動家および表現者の思想的展開における文学的想像力を跡付ける資料の調査収集をおこなう。 上記の基礎的作業を踏まえて、論文と著作を公刊し、当該研究成果を広く公開していく計画である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた文献資料調査旅行が、大学校務との兼ね合いで無理となり、出張を断念せざるをえにくなったため。繰り越しの金額が生じ、次年度使用額として算定されている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当年度は課題研究の3年目の仕上げの年であり、文献資料調査出張が数回必要となる。昨年の反省を活かし、研究スケジュールを組む際、次年度使用額を早い時期に活用するため、急ぎ文献資料調査出張を実行する計画である。
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Research Products
(5 results)