2014 Fiscal Year Research-status Report
古代日本文学における河川交流の研究―日本海と瀬戸内海を繋ぐもの―
Project/Area Number |
25370235
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
堂野前 彰子(岡本彰子) 明治大学, 経営学部, 兼任講師 (50588770)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 任仲 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (30599577)
袴田 光康 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (90552729)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 古代日本文学 / 越 / アメノヒボコ / 塩 / 蝦夷 / 田村麻呂伝承 / 黄金 / 交易ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は由良川―加古川水系を利用した日本海と瀬戸内海を繋ぐ河川交易を明らかにすべく、丹後、若狭、越にかけての日本海交易の様相解明を目指した。そのアプローチ方法として、Aテキスト研究とBフィールド調査を行った。 Aテキスト研究では、『古事記』『日本書紀』『万葉集』『風土記』に描かれた越に注目し、韓半島から渡来したアメノヒボコが出石を本拠地とするまでの軌跡を追った。西は「由良川―加古川」水系から、東は「敦賀―近江」を結ぶラインまでというその移動範囲は、畿内を包括したその一つ外側の地域にあたり、朝廷直轄地であるミケツ国に囲まれている。そのミケツ国からは塩が貢納されていて、結界をつくる塩によってその範囲が示されているのは「王の力」を考える上で極めて象徴的である。呪いをかける呪具として語られている一方、塩と言えば、サラリーの語源がソルトであったように、貨幣的価値を持つものにして流通していくものである。まさに王とはそれを独占し流通させていくものであることが明らかになった。 また、越が蝦夷征伐の拠点であることに注目し、蝦夷・悪路王・坂上田村麻呂伝承の研究も行った。古代における蝦夷は交易相手であったことが『日本書紀』の記述などからうかがえるのだが、そのような友好的な関係が壊されたのは仏像に鍍金するための黄金が必要になったからである。古代文献のみならず、寺社縁起や口承伝承、『神道集』の諏訪大明神秋山祭及び五月会事や『遠野物語』にも蝦夷伝承を探り、どのようにして蝦夷征伐がなされたのか多角的にアプローチした。その際、Bフィールド調査として田村麻呂伝承を追って北上川をその水源まで遡り、田村麻呂によって奉納された千手観音や十一面観音の背後には黄金伝承があることを確認した。その結果、東北に散見される長谷寺は布教の名のもとにそのような交易ネットワークを拡大していったことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
琵琶湖水系における交易の様相解明を行いつつ、それを発展させた形で、日本海を利用した水上交易に関しての研究を進めることができた。特に今までの研究ではあまり触れられてこなかったアメノヒボコの勢力圏に関して、「塩」と「ミケツ国」という視点から論じることができた。さらに、蝦夷征伐の出航地であった越に注目して蝦夷の問題にまで言及したことから、柳田国男の『遠野物語』の中に坂上田村麻呂によって征伐された蝦夷の姿を見出したり、水系に注目して伝承の分布を把握したりするなど、近代の書物まで視野にいれた新しい視点を蝦夷伝承の解釈に導入することもできた。それら研究のまとめとして、都を中心とした水系にはそれぞれ担わされた文学的イメージがあることを指摘し、そのモデルを提示できたことは26年度の大きな成果である。 また、日本・韓国・中国・ベトナムの四国が参加した国際学術大会で研究発表したことから、東アジアという大きなくくりの中で日韓の「龍」の違いを考える機会を得、龍の伝承を大きく二つの型―海洋民族が持っていた龍の神話すなわち母系的龍の神話と、稲作農耕民が持っていた龍退治の神話すなわち父系的龍の神話―に分類して捉えなおすことを提案し、それを韓国学会にむけて発信することもできた。当初目論んでいた、日韓文学の比較から「渡来」「漂流」の問題を考えるところまでは至らなかったものの、最終年度のテーマである「浜名湖―諏訪湖―糸魚川」を結ぶ水系によって描き出される「東国」及び「東北」の全容をつかみ、その研究に着手することができた。よっておおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年に引き続いて日本海における交易の様相解明を行いつつ、それを発展させた形で、「東北」及び「東国」経営に関する研究を進めるものとする。中でも東国との境界をなしている「天竜川―諏訪湖―糸井川」水系に注目し、天狗及び諏訪信仰をキーワードに人々の移動と交流の様相解明を目指す。 その際、A文献研究において主に用いるのは、『古事記』『日本書紀』『万葉集』『風土記』『日本霊異記』などの古代文学に加え、『神道集』及び『遠野物語』である。何故明治時代の書物である『遠野物語』を対象とするのかと言えば、『神道集』諏訪縁起に語られている巻狩などの様相が、『遠野物語』に語られているマタギの狩猟法に共通し、その世界観が引き継がれていると考えるからである。かつ、マタギが所持している「山立根本巻」には、藤原藤太の百足退治に類似した日光神と赤城神の争いが語られており、そのような伝承の伝播を辿っていけば、水系とはまた異なった、山の尾根伝いの交易ルートが見えてくるだろう。水系による交易ルートが中央政府によって整えられ発展した「官・公」の道だとすれば、尾根伝いの交易ルートは、修験者たちが布教活動の際に利用し、木地師や蹈鞴師、山師など漂泊民が生活で日常的に通う「民・私」の道である。本課題の次なる展開として、山脈の交易ルート解明に着手する。 また、Bフィールド調査としては、諏訪縁起関連地を中心に、東日本における修験の聖地や、『古事記』でタケミナカタが逃げてきたルートを検証すべく糸魚川の調査を行い、文献研究とのインテグレートから新たな神話解釈、説話解釈を試みる。 尚、本年度は本研究の最終年であるため、今まで研究会で行ってきた『神道集』諏訪縁起の注釈をまとめ、小冊子を作成する予定である。
|
Causes of Carryover |
海外学会参加時の現地案内の謝金として予算を確保していたが、現地案内の謝金が発生せず、また『神道集』諏訪縁起の校異が予定より短時間で終了し、そのアルバイト代が予定より少なかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度は『神道集』諏訪縁起の注釈をまとめ冊子を作成する予定であり、その原稿編集及び版下作成費として使用する。
|
Research Products
(17 results)