2013 Fiscal Year Research-status Report
孝子伝をめぐる幕府と地方 ――『官刻孝義録』と藩政資料を比較して
Project/Area Number |
25370237
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
勝又 基 明星大学, 人文学部, 准教授 (00409533)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 孝子伝 / 日本近世文学 / 土佐藩 / 孝 / 表彰 |
Research Abstract |
今年度は、当初の研究計画で言えば1年半分の成果を挙げることができた。今年度は計画段階では「研究準備期」と位置付け、17~18世紀孝子伝の基礎的なデータ集めを行う予定であった。しかしこの作業がたいへん順調に進み、年度途中で完了した。日本国内で17~18世紀に書かれた孝子伝を現時点でできる限りリストアップし、その地域や所蔵機関についての整理が完了したのである。 よって平成26年度の予算を前倒し請求し、来年度行う予定の調査にも踏み込んだ。具体的には、各地の具体的な調査を始めたのである。そのさい、一つ進行上の大きな進歩があった。それは地域別の調査から、年代順の調査への転換である。計画当初は、関東、東北、などと地域別に調査を行おうと考えていたのだが、地理的条件を問わず、孝子表彰を早い時期に行った地域から先に調査することにしたのである。そのため、高知県、山形県鶴岡市、新潟県、愛知県、三重県といった、一見バラバラな地域へ調査出張を行った。しかしこの調査によって、幕初から寛延期ごろまでにかけての全国的な動向の時代感覚を把握することができた。 こうした調査を踏まえて、初年度より研究成果の公表に踏み切った。勤務校の紀要に「近世孝子伝解題(一)」という論文を発表したのである。手始めに今回は、高知県(土佐藩)における孝子表彰について整理した。これはこの地の孝子伝の本格的な整理としては初めてのものとなる。のみならず、当地で最も著名な『土佐国鏡草』について、従来知られている本文に大きな欠陥があることも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の評価をしたのは、本来25年度いっぱいかけて行うべき範囲を半年で終え、次の段階へ進み得たためである。17~18世紀孝子伝のリストアップを終えて、個々の地域における孝子伝の表彰についての研究にまで踏み込んだ。具体的には、高知県、山形県鶴岡市、新潟県、愛知県、三重県といった地域において、現地の図書館蔵の郷土資料調査や、孝子の顕彰碑の調査、郷土史家の方々への聞き取りなどを行った。この中でもとくに山形県鶴岡市では『庄内孝子画伝』の写本のうち最も原本に近いものを見いだした。また三重では従来の研究レベルを大きく越える成果を得て、三重から奈良へという東海地方と上方とを結ぶ文化の動態を掴むことができた。新潟では孝子顕彰碑を訪ね、天領ならではの顕彰形態を確認した。 また研究実績も挙げることができた。勤務校で発表している「明星大学研究紀要」に発表した「近世孝子伝解題(一)」という論文は、高知県(土佐藩)の孝子伝におけるはじめての本格的な整理である。のみならず、当地で最も著名な『土佐国鏡草』について、従来知られている本文に大きな欠陥があることを明らかにしたのは大きな成果である。具体的に言えば、従来『土佐群書類従』『日本教育文庫』等で活字翻刻されて来た本文は、『土佐国鏡草』全体の半分にしか満たないことが分かった。これによって高知の孝子伝研究はあらたな段階へと移るはずである。なおこの連載はこの科研の期間中続けて行く予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は海外研究出張が決まった。一年間ハーバード大学で客員研究員として研究に従事することになったのである。これによって、計画していた現地を訪ねての調査は難しくなる。そこで平成25年度に集めた資料を分析することを当年度の基本作業としたい。さいわい手元にはかなりの資料が集まっているので、実施二年目の作業としてはこれで十分であると見積もっている。 また、米国にも日本の孝子伝はいくつか所蔵されている。たとえば所属のハーバード大学イェンチン図書館には、『本朝孝子伝』貞享二年版が蔵されている。またC. V. Starr East Asian Library (University of California, Berkeley)には、孝子伝のみならず教訓的な書物が数多く蔵されている。またWason Collection(Cornell University)は3800タイトルの和書を蔵するというので、孝子伝の所在も含めて確認を行いたいと考えている。 平成27年度以降は、従来の計画通り、各都道府県を回って、18世紀孝子伝の調査を行いたいと考えている。とくに宝暦~寛政期という、18世紀後半に孝子顕彰を盛んに行った地域について、重点的に調査を行うつもりである。たとえば愛媛県大洲市は『予州大洲好人録』(寛政12年刊)が刊行されており重要である。また奈良県では『和州/和田邑孝女茂代伝』(天明元年刊)や『和州孝子伝』(宝暦六年序)などが相次いで書かれている。しかしこれらの多くは大和国ではあるものの、津藩の支藩で書かれたものらしい。大和国と津藩との関わりは、今後精査が必要である。 このような調査を行いながら、引き続いて勤務校の紀要に「近世孝子伝解題」の連載を行い、成果を発表して行きたい。
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