2014 Fiscal Year Research-status Report
孝子伝をめぐる幕府と地方 ――『官刻孝義録』と藩政資料を比較して
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25370237
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
勝又 基 明星大学, 人文学部, 教授 (00409533)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 孝子伝 / 高山彦九郎 / 近世中期 / 小浜藩 / 懐徳堂 / 水戸藩 |
Outline of Annual Research Achievements |
『孝子を訪ねる旅 ―江戸期社会を支えた人々』(三弥井書店、3月)を出版した。これは近世中期の勤皇思想家・高山彦九郎の旅日記に出てくる孝子良民伝との接触の記事を追跡調査したものである。彦九郎は丁度、安永~寛政期に全国を旅したので、彼の事蹟を追うことは、そのまま本科研の対象範囲と重なる。結果的に、この時期の重要な地域における孝子表彰、孝子伝執筆の実態について明らかにすることができた。 若狭の小浜藩では、彦九郎が訪れていた時期にちょうど集中的に孝子表彰が数多く行われていたことを指摘。『懿民小伝』(小浜市立図書館蔵)など、未紹介の資料を紹介した。また山梨のあるお寺に残る災害文学の一資料だったものが、三輪執斎の手によって伝記として編まれ、その自筆伝記が高山彦九郎の手から執斎の子孫の手に渡る様子を明らかにした。この経緯を通じて、創成期の懐徳堂、播州龍野藩などの文事のありかたについて、新たな問題を提示した。 また抽象的な問題では、江戸時代中期文化に闇斎学が果たした役割を明らかにした。娯楽・創作を中心とした従来の文学研究において闇斎学は重んじられて来なかったが、教訓・事実を中心とした文学史を考えようとする際には、闇斎学が大きな役割を果たしていることを論じた。 彦九郎の調査を通じて、元禄~寛政、という本科研で対象とする時期における、孝子表彰の全体的な色合いも明らかになった。この時期は、各藩が独自に孝子顕彰を行い、藩同士の連携はほとんど無いという、個別の時代なのであった。だからこそ全国を旅した彦九郎の記録は貴重なのであり、そして『官刻孝義録』という幕府の試みも必然であったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
5年間の計画の2年目で著書を刊行できたことは、研究が計画以上に進展していると評して良いであろう。拙著は書き下ろしであるが、本研究課題に該当する学術論文として、6~7本分の内容を盛り込んだつもりである。 該書で明らかにした地域は次の通りである。第二章「小浜城下周遊」(小浜藩)、第三章「若狭路から北陸へ」(小浜藩、越後高田藩)、東海道の旅(小田原藩、駿府)、第六章「甲斐国の節婦」(甲斐国、龍野藩、懐徳堂)、第七章「京都で会った伊豆新島の孝子」(大和国)、第八章「常陸の孝子をたずねて」(水戸藩)、第九章「語り部としての彦九郎」(仙台藩)。また、第五章「孝子良民伝コレクターとしての彦九郎」では、この時期における幕府と地方、という問題について論じた。 本研究の目的は、元禄~寛政期、すなわち18世紀における各藩の孝子顕彰の状況を明らかにし、そのうえで『官刻孝義録』の記事と比較することにある。このうち各藩の状況を明らかにする点においては、かなり順調に調査が進み、アウトプットも行っていると言って良いであろう。 まだアウトプットを行っていない箇所についても、資料整理は順調に進んでいる。たとえば一昨年末に調査した鶴岡藩、広島藩については、資料の収集がほぼ完了し、あとは整理してアウトプットを待つのみとなっている。 以上の通り、本研究は当初の計画以上に進展している。今後もこのペースを守り、成果をあげてゆく所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
先にも述べた通り、本研究の目的は、元禄~寛政期、すなわち18世紀における各藩の孝子顕彰の状況を明らかにし、そのうえで『官刻孝義録』の記事と比較することにある。このうち各藩の状況を明かにする面については、平成25年度に始めた論文連載「近世孝子伝解題」を書き継ぐことが最も有効な方法であると考える。これを通じて、資料に即した着実なデータベース化を遂行する。本年度刊行した上記拙著においても、小浜藩に伝わる『懿民小伝』(小浜市立図書館蔵)など、新たな注目すべき資料について紹介しておいた。これらを改めて解題の形で正確かつ詳細に報告する。また拙著で触れなかった広島藩、鶴岡藩、津藩、尾張藩の整理も、大きな問題として残されている。これらの藩については、すでに基礎調査は行った。これを踏まえ、細かい点を詰めてアウトプットしたい。 地方と幕府との関わりについては、まだ十分な調査を行っていない。個別に明らかにして来た藩レベルでの孝子顕彰が、幕府が編纂・刊行した『官刻孝義録』(享和元年〈1801〉刊)にどう反映されているのか(或いは、されていないのか)。これを明らかにすることが本研究課題の最終的な課題である。そのためには藩の資料と『官刻孝義録』の本文とを比較することが最良な方法である。さいわい藩によっては幕府へ書上を行った際の原本が残っているところもある。こうした資料を有効活用しつつ、近世中期における各藩と幕府との関係を明らかにしたいと考えている。
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Research Products
(5 results)