2014 Fiscal Year Research-status Report
大岡昇平文学の基礎的および総合的研究―創作ノート・原稿類を含む―
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25370246
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
花崎 育代 立命館大学, 文学部, 教授 (00259186)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日本文学 / 戦後文学 / 草稿 / 『野火』 / 『酸素』 / デジタルアーカイブ / 原稿 / 国文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本近代文学の代表的作家のひとりである大岡昇平の文学研究において、創作ノート・原稿類を含む自筆稿まで視野に入れたものは、当該研究代表の花崎育代による科研費課題「大岡昇平文学の基礎的および総合的研究―構想ノート・草稿類を含む―」(研究課題番号:21520217、平成21~24年度)以外は、ほぼ皆無であった。本研究はこの現状に鑑み企図したものである。平成25年度から5か年の計画では上記花崎の研究に連なるものとして、大岡作家出発期の戦後期の代表作『俘虜記』『武蔵野夫人』『野火』草稿類の補遺とともに、これらに続く時期の原稿を中心に調査研究している。
平成26年度は、主に神奈川近代文学館(神奈川県)が所蔵する大岡昇平『酸素』関係の手稿調査を行った。特に『酸素』初出誌手入切抜、および同作品単行手入図書をデジタル一眼レフカメラにより撮影、同作品の改稿過程を具体的に確認し得たことは大きな成果であった。大岡著作権継承者は原則として現在原稿類の公刊を認めていないが、撮影の許可は下りているため、可能となった研究である。1950年代本邦流通のいまだ粗悪な紙類の著しい劣化という状況において、日本文学の貴重な資料を後世に伝えるという意味においてきわめて喫緊かつ重要な仕事を行ったといえる。 前年度購入した「野火」『展望』初出第3回分(市場に出たため、同作原稿5~8回分を所蔵する神奈川近代文学館に購入予定のないことを受けて急遽本科研費で購入したもの)についての調査考察を『論究日本文學』第100号(平成26年5月)にて発表したほか、「野火」『展望』最終回の原稿についての考察を日本近代文学館編纂の日本近代文学の本格的な原稿草稿事典としては初の書籍(平成27年2月)にて発表した。 なお、前年度に、日本文学の資産散逸を防ぎ公的機関所蔵とすべく上記原稿購入を最優先させたため不可能であった機器購入を本年度にて行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全5年間の研究計画において、大岡昇平の作家的出発期である戦後昭和30年代あたりまでの代表作を軸にした研究を、神奈川近代文学館が所蔵している手稿類を含めて研究している。平成26年度は、大岡昇平昭和20年代の代表作である『酸素』の作家自身による手入初出誌切抜、および手入図書のデジタル一眼レフカメラによる撮影を、著作権継承者である大岡家からの許可を得て行った。現在これを受けて詳細な調査考察を継続中である。 また「実績の概要」欄に記したように、前年度に研究の公共性に鑑み購入した『野火』の雑誌『展望』初出第3回分(『展望』昭和26年3月号掲載分)についての考察論考を『論究日本文學』第100号に掲載した他、「野火」『展望』初出最終回についてを軸に大岡の原稿草稿の特質について、使用した原稿用紙等の問題も含め考察した論考を、日本近代文学館編『近代文学草稿・原稿研究事典』(八木書店、平成27年2月)に掲載した。よって、研究は、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、大岡昇平文学研究のうち、戦後の作品について、資料劣化が懸念されている原稿、創作ノート等手稿類の調査と考察を中心に行ってきている。著作権継承者により、原稿類の影印出版、全文翻刻は原則として現在かなわないが、撮影による細部に至るまでの調査が可能となったため、この方法により研究を行ってきている。作品/テクストを著作者までさかのぼって研究する場合にはプライバシーや著作権継承者の意向の問題は当然発生する尊重されるべきものであり、本件における上述の、出版は行わないが調査撮影と考察は進めるという計画とその遂行は、現在考え得る最良の対応であると考えられる。 よってこれまで行ってきた原稿類の調査と撮影を行い考察を進める。具体的には3年目の27年度および4年目の28年度は、1、2年目の25、26年度に引き続き、『酸素』『化粧』の補遺につづき『ハムレット日記』『花影』さらにそれらの周辺作品の創作ノートや原稿草稿類を撮影(撮影できないものについては筆写)し、調査を進め、考察していく。 上記文学館の閲覧事情や当該作家の文字判別が極めて困難等の理由で計画遂行に遅滞が予想される場合には、活字資料のさらなる読解、戦前-戦中-戦後の同時代状況の考察に努める。 上記のような推進方策を今後も進めていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、前年度(平成25年度)に、当該研究の主軸というべき大岡昇平原稿の「野火」『展望』初出第三回分を、その研究の公共性に鑑み急遽購入したことの余波によるものである。すなわち、この購入により前年度に購入すべき機器(ノートパソコン等)の購入が不可能となり、本年度(平成26年度)にずれこんだことにより、撮影費を過少に見積もる必要があったことである。 実際には本年度の撮影対象は慎重さが不可欠で時間を要したため、撮影料が見積り以上に過少となった。前年度までの撮影経験からいっけん容易にみえた切抜と図書の撮影に予想以上の時間が必要であったためである。さらにこの整理にも時日を要したため、資料整理作業は今年度中に終了したものの、3月にずれ込んだために、経費としては次年度繰越となったことも要因である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額の使用計画としては、「生じた理由」欄に記したように、作業が年度末におよんだため、作業費用が次年度繰越とならざるを得なかったことがあるため、まずはこの作業費が計上される。 また本年度においては撮影前の事前調査に時日をかける他、デジタルカメラによる撮影内容、事後の資料整理をもさらに精度をあげたものを目指すため、こうした項目についての使用を計画している。
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