2014 Fiscal Year Research-status Report
晩年のマーク・トウェイン―新版『自伝』(2010)に見る著者の歴史意識―
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25370263
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井川 眞砂 東北大学, 国際文化研究科, 名誉教授 (30104730)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マーク・トウェイン / 晩年のマーク・トウェイン / アメリカ文学 / 自伝文学 / 労働騎士団 / 1880年代アメリカ労働運動 / アメリカ史 / 世紀転換期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「晩年のマーク・トウェイン―新版『自伝』(2010)に見る著者の歴史意識―」は、トウェイン没後100年にしてようやく出版された無削除・新版『自伝』をとりあげ、その口述の特徴である「過去」=historyと「現在」=diaryを往来する「語りの現在=1906年の口述」に焦点を当て、そこに表象される著者晩年の物の見方/考え方の分析によって、その「歴史意識」を明らかにし、これまで相対的に看過されてきた晩年期の再検討・再構築に貢献しようとする。 (1)全3巻(予定)の同『自伝』は、最晩年の完結した著述であることが本出版事業によって判明した。第1巻を集団の読書会で読了。申請者自身も数回報告した。(2)計画初年度に第2巻が公刊され、分析可能なテキスト範囲が増えた。(3)「過去」と「現在」を往来する本自伝の「現在」への関心とは、今日の世界への著者の旺盛な関心であり、それへの反応であって、それは極めて鋭いことが確認できた。(4)そうした問題意識/歴史意識は、いったい如何にして形成されたのか。この興味深い問いに応えるべく、時代を少々遡り、作家活動盛期に重なる1880年代のアメリカ労働運動が与えた影響を、_Life of the Mississippi_ (1883)や、"The New Dynasty"(1886執筆、1957出版)によって考察。(5)その成果を、合衆国The Western Literature Associationの年次大会で報告(2013)し、_Mark Twain Studies(2014)に掲載。(6)ついで、1880年代のジャーナリズム(特にCentury誌による南北戦争回想シリーズ他)の影響や、「従軍失敗談」(1885)、_A Connecticut Yankee_(1889)等の執筆を考察し、1880年代の作家活動を追跡して晩年への繋がりを推測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)全3巻予定の本『自伝』第1巻を、数名のトウェイン研究者からなる集団的討議が可能な読書会で読了した。本申請者も数回の報告を担当した。(2)ひきつづき、第2巻を集団による読書会形式で読んでいる。(3)「過去」と「現在」を往来する本自伝の「現在」への関心とは、今日の世界への著者の旺盛な関心であり、それへの鋭い反応であることが確認できた。(4)そうした問題意識/歴史意識は、どうやら作家の青・壮年時代に、とりわけトウェインの作家活動盛期に重なる1880年代に構築されたように思われる。その仮説にもとづき、1880年代の労働運動からの影響を考察した。(5)ついで、同時代(=南北戦争再建期後のアメリカ)のジャーナリズム(とりわけCentury誌における南北戦争シリーズやシベリアの思想犯流刑地報告シリーズなど)との関わり(寄稿や講読)、作家自身による南部訪問(1882)、さらには、_Life on the Mississippi_ (1883)、_Adventures of Huckleberry Finn_(1885)、"The Private History of a Campaign that Failed"(1885) 、_A Connecticut Yankee in King Arthur's Court_(1889)等の執筆に見られるトウェインの歴史認識を検討した。(6)こうしてトウェインの精神に構築される認識が、晩年に引き継がれるのではないかという仮説が成り立ちそうである。そうであるならば、それはこれまでのトウェインの晩年像の見直しになる。そうした得難い、一定の成果を得ることができたものの、『自伝』そのものの分析をさらに進める必要があると考えている。その点で、やや遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)上記「現在までの達成度」を受け、ひきつづき『自伝』による「現在」への問題意識や歴史意識について整理分析を進める。 (2)すなわち、懐かしい「60年前の少年時代」についての語りをしばらく脇に置いてまでも、「それ以上に大いに関心のある今日の出来事」について口述するトウェインには、社会的・政治的問題を論じる意思と力量がある。その姿を、語りの内容と表現方法の両面から考察することを通して歴史意識を析出する。たとえば、アメリカ海軍による1906年3月10日のフィリピンにおけるモロ族大虐殺事件が新聞報道されるや、すぐさまその報道姿勢やアメリカ大統領の態度に対する批判的含意のある論評を口述する。また、1906年3月下旬に自宅への訪問を受けたロシアの革命家についての口述では、近い将来に「ロシアにおける革命」が起こる可能性と、革命を支持する姿勢を明確に語るのである。 (3)現代史へと至る大きな歴史の流れが、身近な市井の人びとの日々の暮らしを織り込みながら捉えられる。トウェインの身近にいる市井の人々へのまなざしは温かい。またその視野はひろい。そうした点を、本『自伝』の大きな魅力としてとらえたい。 (4)現実社会への鋭い批判をしながらも、なお人類の未来への切なる希望を示唆する本『自伝』の魅力を示し得たらと考えているところである。 以上の視座からの考察をすすめることによって、トウェイン晩年の再検討・再構築を目指す。
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Causes of Carryover |
差し引き使用額に11,225円が生じた。当該年度に購入予定であった書籍3-4冊の入荷が年度内に間に合わなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金200,000円と合わせて、主要には、書籍購入ならびに文献複写、旅費等にあてる計画である。
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