2015 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀前半イギリスにおけるオラトリオ形成への笑劇とバーレスクの影響
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25370267
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
高際 澄雄 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (50092705)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヘンデル / オラトリオ / 18世紀前半イギリス / セメレー / ヨセフとその兄弟たち / パメラ論争 / ジョウゼフ・アンドルーズ / フィールディング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究を通じて、ヘンデルのオラトリオの持つ多様性が明白となった。一般にヘンデルのオラトリオは、彼のイタリア歌劇と比して単調であると考えられている。ところが、その成立に笑劇やバーレスクが密接に関係していることを考慮するなら、それはかつてヘンデルの歌劇を非合理的作品と考えたと同様に本質から離れている。 18世紀前半イギリスの演劇界がフィールディングの笑劇およびバーレスクで活気づいたために、1733年に貴族歌劇団が結成され、その対抗意識からヘンデル後期の傑作イタリア歌劇作品が生まれたことは明らかである。そのため貴族歌劇団は自壊し、対抗集団を失ったヘンデルもイタリア歌劇に集中できなくなった。そこで『メサイア』が作曲され、ヘンデルのオラトリオ作曲期が続くのだが、一般に考えられているようにその後の展開は順調ではなかった。『メサイア』はダブリンでは成功しても、ロンドンでは受け入れられなかった。そこでヘンデルは『セメレー』と『ヨセフとその兄弟たち』を作曲するが成功せず、1745年の反乱が起き、愛国的な『マカベアのユダ』を作曲して初めて大成功を収める。このためヘンデルは愛国的な作品を作り続けたと思い込まれている。 しかし『セメレー』の成立を「パメラ論争」の流れの中に位置づければ、『セメレー』と『ヨセフとその兄弟たち』がフィールディングの笑劇やバーレスクの要素に刺激されていること明らかとなる。このことは、ヘンデルのオラトリオがよく言われるような中産階級的、愛国的、宗教的な要素だけで成り立っているのではないことを教えている。 ヘンデルはオラトリオ作曲期に入っても、作品に個性を与え、最後まで豊かな多様性に富む作品を作り続けた。ヘンデルのオラトリオ作品が、彼のイタリア歌劇作品に劣らず優れた作品であることを理解するには、その成立に笑劇とバーレスクが密接に関わっていることを理解する必要がある。
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Research Products
(3 results)