2015 Fiscal Year Annual Research Report
日本作家から探るフォークナー文学の世界性――大江、中上を中心に
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25370294
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
田中 敬子 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 名誉教授 (70197440)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フォークナー / 中上健次 / 大江健三郎 / 父権制 / ポストモダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度は、2015年8月に韓国のソウルで行われたInternational American Studies Associationの第7回国際大会に出席し、第1日目(17日)の第6セッションで、“Faulkner, American Book Market, and the US Cultural Policy”という題で研究発表を行った。これは第2次世界大戦中および戦後アメリカの出版事情と、戦後日本でのその影響とフォークナーの関係を論じたもので、国境を越えた文学の影響にも、政治や戦争時広報としての出版、戦後の出版形態、さらにそれらに対する作家や読者の意識が関係することを指摘した。 2016年2月に出版された共著書『ウィリアム・フォークナーと老いの表象』では、「『行け、モーセ』と老いの表象」と題して、フォークナーが中年期後半にはやくも、ポストモダニズム的な視点で父権制社会と老年期を捉え直していることを考察した。大江健三郎の小説は老年期になってポストモダン的な傾向を強めているが、フォークナーにも父権について、老年期とポストモダニズム的想像力の関わりがみえる。 2013年度の研究では、中上健次が天皇制に対してマイノリティの立場にある息子として、南部作家フォークナーに共感した理由を解明している。2014年度にはさらにフォークナーと中上が、育てられた共同体社会にこだわりつつも越境指向の語りを持つことを考察した。一方、大江は同じく父にあらがう息子であっても、自らも父であることに意識的である。最終年度では、中上よりも1世代年上で敗戦直後の日本におけるアメリカ文化の影響を非常に意識していた大江が、政治と文化の関わりへの意識、老年期の父権解体とポストモダニズム的語りの促進という点でフォークナーと共通することを、フォークナーの第2次世界大戦中の作品より明らかにした。
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Research Products
(2 results)