2013 Fiscal Year Research-status Report
ガイドブックの詩学―19世紀湖水地方における文化的景観の変容と文学観光
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25370298
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60316031)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ワーズワス / 湖水地方観光 / 文化的景観 / 文学観光 / 旅行ガイド / 感受性の共有 / 作品流通 |
Research Abstract |
平成25年度は、次の3点を中心に研究を進めた。 ①これまで研究を進めてきた、19世紀における英国湖水地方観光の変容とワーズワスの一般大衆への受容の関係についてのまとめとして、モノグラフ出版のための準備を行った。William Wordsworth and the Invention of Tourism, 1820-1900 というタイトルで、イギリスの出版社Ashgateから5月に出版の運びとなった。 ②ワーズワスの『湖水案内』第2版と共に出版された「ダドン・ソネット」(1820)のガイドブック的性格について検討を行った。いかにこのソネット集が、読者あるいは旅行者たちを教え導くことを意識した作品であるかということを明らかにしたが、それは「案内せずして案内する」あるいは「読者(旅行者)自身に発見を促すガイド」とも言うべき性格のものであることも分かった。この詩集は様々なガイドブックに引用されることで、ダドン渓谷という人知れぬ自然美を誇る場所を観光地化することに繋がったが、その美が観光によって損なわれることなく保全されたことには、自然に対する敬意の念を涵養するという、ワーズワスの詩が果たした役割も大きいだろう。この研究成果は、8月に英国ライダル・ホールで行われた第42回ワーズワス国際学会における発表につながり、様々なコメントを得ることができた。今後論文にまとめる予定である。 ③ガイドブックにワーズワスその他の詩人たちの作品が自由勝手に引用されたことをめぐり、コピーライトと作品流通のバランスをワーズワスがどう考えていたのかということを考察し、10月にイギリス・ロマン派学会全国大会でのシンポジウムで発表を行った後、紀要論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究は、湖水派詩人たちの作品からの引用を多く含むガイドブックに牽引された文学観光が、いかに湖水地方を英国の国民的財産に仕立て上げることに寄与したかということを明らかにすることであるが、とりわけ「ダドン・ソネット」という、現在では忘れ去られたワーズワス作品が、19世紀にいかに愛読され、湖水地方における文学観光を促したかということを明らかにできたのは大きな成果であった。モノグラフ出版のための準備が思った以上に時間がかかったため、この研究成果を出版公表するまでには至らなかったが、これは26年度に回したい。 他方、シンポジウムに誘われたことをきっかけに、コピーライトとガイドブック、文学観光の関係を探るという、当初計画していなかった新しい観点も取り入れて、研究を進めることができたことは評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後3年間で、引き続きワーズワスの作品(『序曲』『逍遥』など)をガイドブックの詩学という視点から読み直すことで、ワーズワス受容史に新たな視座を与えることを目指す。また、19世紀のガイドブックのうち代表的なものを時系列に取り上げて、それらの中での詩の引用のされ方の変化、挿絵の変化などを検証し、景観・空間の捉え方が19世紀を通じてどう変化したのかを探る予定である。旅行者たちの種類(階級・職業)の違いによる湖水地方への反応の違いと共通点についても精査し、湖水地方の文化的景観が「英国的風景」へと作られていく様を検証する。年に1、2度は内外の学会で発表するよう準備し、内外の研究者とも意見交換をしていきたい。
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