2015 Fiscal Year Research-status Report
ガイドブックの詩学―19世紀湖水地方における文化的景観の変容と文学観光
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25370298
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (60316031)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ワーズワス / 文学観光 / 英国湖水地方 / 文化的景観 / 旅行ガイド / 環境意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は次の点を中心に研究を進めた。 ① 昨年ワーズワス国際学会で講演を行った研究成果を論文 “The Lake District through The Excursion: The Reception of Wordsworth and Tourism” としてまとめ、日本英文学会の雑誌 Studies in English Literature (英語号)に発表した。 ②湖水地方における文化的景観は20世紀初頭にどのような変化を受けたのか、第一次世界大戦はどのような影響を与えたのかについて検証し、ワーズワス国際学会において口頭発表を行った。 ③鉄道時代・自動車時代初期の湖水地方観光の様相についてリサーチを進め、旅行者の空間認識の変化、ワーズワスをはじめとする湖水地方における文化遺産の扱われ方の変化について検証を進めた。 ④19世紀中葉における文学観光の庶民的広がりについて、庶民向けの雑誌を中心に検証し、自然環境に対する意識の高まりという観点も織り込んで論文として公刊した。また、ワーズワスの庭を中心とした観光の在り方について論文をまとめ、日本英文学会の雑誌支部統合号に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①19世紀の湖水地方観光において最も大きな役割を果たした『逍遥』(1814)について検証した論文を、会員数の多い日本英文学会の学会誌で発表できた点は大きい。本論考は、「人間の精神と自然界との交流」というワーズワス作品のテーマが、いかにして旅行案内書を通して受容されていったかを具体的に明らかにするとともに、自然風景の観光利用といった近代の文化現象を形作る上で文学テキストが果たした役割についても解き明かしているとして高く評価され、最優秀論文賞を受賞した。 ②湖水地方における観光とワーズワス文学との関連性について、考察の対象を20世紀初頭まで広げられた点も評価できる。大衆文化、マス・ツーリズムの時代になると湖水地方観光におけるワーズワスの役割は相対的に小さくなり始めるが、この状況は第一次世界大戦によって一変する。戦争は愛国心を呼び覚まし、同様に愛国心の高まった革命・ナポレオン戦争時代(1793年~1815年)へ、そしてこの時期に書かれたワーズワスのソネット群への関心を高めることになり、一種のワーズワス・リバイバルが起きた。さらに戦争による荒廃は、英国における文化的景観保存運動を加速させた。そうした現象を湖水地方におけるワーズワス観光という観点から検証できたのは大きな成果である。 ③鉄道や自動車といった移動手段に関する革新が、旅行者たちの空間認識の変化、文化的景観の生成・変化とどう関わってくるのかについてリサーチを続けた。鉄道も自動車も近代技術革新がもたらした発明品であり、それらは空間・時間を制御し安価で安全、快適な旅行を可能にするという恩恵をもたらすと共に、自然環境を破壊するという負の側面ももたらした。しかし自動車開発黎明期においては、自動車と鉄道に対する人々の反応には大きな違いがあり、自動車旅行者にはロマン主義的な精神の高揚が見られるということを発見できたことは大きな収穫である。
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Strategy for Future Research Activity |
①湖水地方における文学観光の発展・変容と文化的景観の変化について、引き続き考察する。旅行者たちの景観や空間の認識の仕方がどう変化したのかについて、道路の整備、馬車や鉄道、そして自動車(その黎明期からシャラバンやバスなど安価な公共交通の発展の時代へ)といった移動手段に関する技術開発が与えた役割について、引き続きリサーチを続け、論文にまとめる。 ②20世紀になると、イギリス国内においてはワーズワス観光の人気が衰えていくという傾向があるなか、アメリカ人旅行者、日本人旅行者が相対的に増えてきて、ワーズワスに関する文化遺産を守っていったという側面がある。この点について具体的な検証を進めたい。 年に1,2度は内外の学会・研究会で発表するよう準備をし、内外の研究者たちとの意見交換もひきつづき充実させたい。一方で、これまでの成果を本の形で発表するための準備を進める。
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Research Products
(3 results)