2013 Fiscal Year Research-status Report
18世紀以降のアイルランド文学におけるアイルランド語の伝統
Project/Area Number |
25370299
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
池田 寛子 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (90336917)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アイルランド文学 / アイルランド語 / 英語文学 |
Research Abstract |
「18世紀以降のアイルランド文学におけるアイルランド語の伝統」を扱う本研究の目的は、アイルランド語文学とアイルランドの英語文学の関係性を追及しつつ、アイルランド文学の特質に迫ることである。具体的には、アイルランドの歴史や社会の状況を踏まえた上で、アイルランド語文学の継承と変容という観点から、アイルランド作家による英語作品を選定し、精読する。この計画に基づき、ダブリン(アイルランド)に二週間滞在し、資料収集した。研究成果の公表は以下の通りである。 平成25年5月東北大学で開催された日本英文学会第85回大会のシンポジア第4部門「環大西洋の脱植民地詩学」にパネラーの一人として出席した。アイルランド語の伝統がアイルランドの「脱植民地化」となぜどう関わってくるかを論じた。論文『リアダンとクリシルの物語を貫く喪失の痛み-アイルランド語作品英訳の「創造性」』英詩評論2013(平成25)年6月 第29号 pp.26-36を発表した。シンポジウム報告 The Contemporary and Global Significance of Brian Merriman’s Cuairt an Mhean Oiche (The Midnight Court): The Challenge of Translating the Irish-language Poem into Japaneseを行った。講演「Stranger たちのまなざし - 生き続ける死者の声」2013年12月16日 京都大学総合人間学部のゼミで講演を行った。英語作品のアイルランド語訳に着目し、その違いとその背景事情を論じた。「アイルランドの民間伝承におけるstranger の表象 - 異世界からのまなざし」として報告書をまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は予定通りの調査と学会や研究会などでの発表を終え、論文の出版および次の論文の出版準備に入ることができた。具体的には以下のような成果があり、共著の本の出版の遅れを除けば、公表は順調に進んでいる。 平成25年5月東北大学で開催された日本英文学会第85回大会のシンポジア第4部門「環大西洋の脱植民地詩学」での発表内容を加筆修正し、論文を作成中である。論文『リアダンとクリシルの物語を貫く喪失の痛み-アイルランド語作品英訳の「創造性」』において、北アイルランド問題とアイルランド語の関わり、アイルランド語のイメージの変化に着目し、アイルランド語と英語、翻訳に関する近年の文学者、批評家による発言を網羅的に比較・検討した。とりわけ、ノーベル賞詩人Seamus Heaneyとその友人で批評家、作家のSeamus Deaneの発言を最新のインタビューなども含めて考察した。ダブリンで収集した資料を元に「一八世紀アイルランド語詩 ―この世に存在しない法廷を求めて:二つの詩篇に響くアイルランド女性の声」を執筆した。木村正俊編『アイルランド文学その伝統と遺産』(開文社2014)第三章として間もなく出版予定である。18世紀最大のアイルランド語詩人ブライアン・メリマン(Brian Merriman)の『真夜中の法廷』[1780年ごろ完成]と英語文学の世界との接点を追及した。18世紀のアイルランド語長編詩『真夜中の法廷』と英語文学・スコットランド文学との関わりを調査し、メリマンが知っていたと思われるアングロ・アイリッシュジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift, 1667-1745)、同時代人であるマライア・エッジワース(Maria Edgeworth, 1768-1849)、ジェイムズ・マクファーソン(James Macpherson, 1736-1796)、ロバート・バーンズ(Robert Burns, 1759-96)との関係を明らかにした。この研究成果は2014年度出版予定の日本語訳『真夜中の法廷』の解説部に組み込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
アイルランドでの資料収集を行い、その分析・考察・検討の結果を以下の学会で発表する。 韓国のイェイツ学会主催の国際学会に参加し、研究発表することが決まった (2014 International Conference on W.B. Yeats and Reinvention of Poetics in Literature (October 11-1, 2014) Hanyang University Seoul, Korea) 。暫定的な研究発表タイトルは“Yeats and the World of Irish Folklore”で、発表内容は、後に論文としてThe Yeats Journal of Korea (http://www.yeatsjournal.or.kr; http://www.yeatssociety.or.kr)に掲載される予定である。日本アイルランド協会の年次大会(2014年11月22日、23日、日大文理学部[東京])で、22日に18世紀のアイルランド語長編詩『真夜中の法廷』をめぐってシンポジウムが予定されている。このシンポジウムのパネラーのひとりとして、20世紀に入ってからの『真夜中の法廷』受容について論じる。『真夜中の法廷』はW.B.イェイツ (W.B.Yeats, 1865-1939)とフランク・オコナー(Frank O’Connor, 1903-1966)をはじめとしたアイルランドの英語作家の関心を引きつけ、想像力をかき立て続けてきた。オコナーの英訳には人を引き込む力があり、オコナーは『真夜中の法廷』の全貌を初めてアイルランドの人々に広く伝えたという功績で定評がある。パーシー・アーランド・アッシャーによる英訳(1926)、フランク・オコナーの英訳(1945, 1959)とアイルランド語原作の比較を済ませたため、次はシェイマス・ヒーニーの抄訳(1993)キアラン・カーソンの英訳 (2005)との比較を進め、その特徴、背景にある歴史的・社会的事情を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
校務の制約を受け、アイルランド調査滞在が当初の予定より一週間短くなったため。 2014年度に実施するアイルランド・イギリスでの調査滞在は、昨年度分を補いうる調査滞在を実行し、それに見合う成果を挙げるために予定を調整する。韓国での学会発表が新たに加わったため、その発表内容を充実させるために調査期間を可能な限り延ばす。
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