2014 Fiscal Year Research-status Report
アンテベラム期米国におけるドメスティシティ、その汎テクスト的な解釈枠設定の試み
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25370301
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
増田 久美子 駿河台大学, 現代文化学部, 准教授 (80337617)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 19世紀アメリカ合衆国 / 家庭性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はアンテベラム期アメリカの文学作品や家庭小説を中心としたテクスト分析を通して、「家庭性」(domesticity)という概念による19世紀アメリカ合衆国の文化形成を綿密に検証し、さらに同概念の包括的構築を目的とするものである。本年度では、もっとも影響力のあった家庭性の理論家のひとり、セアラ・ヘイル(Sarah Josepha Hale, 1788-1879)の家庭小説を基軸とし、「女性の領域および女性の感化力の拡大」を目指すヘイルのドメスティック・イデオロギーがどのように形成されたのかを考察した。本来、女性を家庭の領域という私的空間に滞留させるはずの「男女の領域分離主義」が、なぜ逆に女性たちの公的空間への参入を可能にさせたのかを検証するうえで、ヘイルの思想的変遷を追究することはきわめて有効であった。 分析対象はヘイルによる二版の『ノースウッド』である(1827年版および1852年版)。これらのテクストにおける加筆や削除の箇所を着目し、そこから見いだせうるジェンダー概念や人種観にかかわる差異を分析することによって、彼女の思想基盤が啓蒙主義的イデオロギーからヴィクトリアニズム的思想へと移行していく過程を分析した。すると、そこに浮上する「慈善」(benevolence)という概念が、ヘイルの二つの思想と二つのテクストを結びつける鍵概念だと判明したのである。それは女性(ないし女性作家)が自身の政治性を提示すること、そして女性(ないし女性読者)が「慈悲深き者」として自己定義することを可能にさせたのであるが、同時に、その言説は「哀れな者」との関係性についての疑念を生じさせ、とりわけ黒人奴隷との関係において生み出される人種的な対立構造としても機能していたことが検証された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度のデータベースをもとに、さらに収集された一次資料および二次資料を加えて拡大させ、それによって、資料分析や先行研究に対する洞察も円滑に行い、論文を執筆することができた。また、第64回日本西洋史学会において、ポスターセッション形式による口頭発表を行い、さまざまな研究者たちとの意見交換をすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、「家庭性」という「女性の領域および女性の感化力の拡大」にかかわる論点のうち、「リベリア植民プロパガンダ小説」と、「女性の歴史記述」という課題に取り組む予定である。これらを遂行するにあたり、19世紀アメリカのリベリア植民地研究の関連図書、人種問題や奴隷制廃止論などの研究書に加え、あらたに女性と歴史記述に関連する研究書を幅広く収集する。 前者の課題の論文を完成させたのち、後者の課題の資料およびテクスト分析を開始する。
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Research Products
(2 results)