2016 Fiscal Year Research-status Report
アンテベラム期米国におけるドメスティシティ、その汎テクスト的な解釈枠設定の試み
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25370301
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
増田 久美子 駿河台大学, 現代文化学部, 教授 (80337617)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 19世紀アメリカ合衆国 / ジェンダー思想 / 家庭性 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀アメリカ合衆国の文化形成において「家庭性」が果たした意義を検証するにあたり、本年度はセアラ・ヘイルの著作『女性の記録』(Sarah Josepha Hale, Woman’s Record, 1855)を取り上げた。これは歴史的に傑出した女性たちの伝記集であり、900頁を超える厖大なエンサイクロペディアである。アメリカでは独立革命期以降、多くの女性作家たちが「歴史」に関わる作品を生み出してきた系譜がある。とくにアンテベラム期社会では、中流階級の白人女性たちによる歴史記述は「私的な」存在とされた女性の思考を公的に表現する手段となり、また、喫緊の社会問題を過去の事実との類推によって議論し、世論を形成する政治的媒体でもあった。本研究はそのようなテクストで論点となった女性の市民性(citizenship)に着目し、ヘイルのテクストを中心に19世紀の女性たちにとって「市民性」とは何かを追究している。 ヘイルの『女性の記録』は、女性が政治領域から退き、男女の平等ではなく差異を強調した「領域」と家庭性を賛美する点で、きわめて保守的な伝記テクストと評価されてきた。だが、そこに提示された市民性の概念は、女性が法的・政治的権利を付与されずとも重要な「市民」としての役割を演じうること、また、現実的にそのような女性たちの社会的輩出を意図していたことを示唆している。保守的な「家庭的歴史」とみなされているヘイルの伝記テクストに、女性が市民という新たな公的役割を獲得しうる可能性を見いだすことによって、本研究はさらに、女性が一個人としての成長と充実を目指して「母親であること」や「妻であること」さえも否定しうる革新的な思想をも読み解いた。以上の分析結果は、「完全な市民権」を放棄した19世紀の女性の市民的行動ないし「市民性」について、その再考を促すものとして位置づけ、論文としてまとめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の文献資料データベースをもとに、さらに収集された一次資料および二次資料を加えて、より充実したデータベースを作成中である。これを利用しながら資料分析や先行研究にたいする洞察・検証等をおこない、論考をまとめ、論文として執筆する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、「家庭性」という概念が意図する「女性の領域および女性の感化力の拡大」を検証するにあたり、アンテベラム期アメリカにおける女性の公的活動という原点に立ち返り、とりわけセアラ・ヘイルという家庭性理論家の著作を中心に研究を進める。また、最終年度の計画として、これまでの家庭性にかんする個別事例を精査し、19世紀アメリカ北部社会における家庭性を包括的に理論づけ、総括する予定である。
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Research Products
(1 results)