2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370303
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
竹内 美佳子 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (00227000)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アフリカ系アメリカ文学 / アメリカン・ルネサンス / リチャード・ライト / ラルフ・エリスン / ハーマン・メルヴィル / 奴隷解放思想 / ニューディール政策 / 公民権運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
公民権運動と脱植民地化運動を駆動したアフリカ系アメリカ文学の社会的意義を考察することが、本研究の目的である。2014年度は第一に、20世紀作家リチャード・ライトとラルフ・エリスンの伝記研究を、大恐慌期を中心に進めた。ルーズベルト大統領によるニューディール政策の公共事業促進局は、1943年の解散時までに広範な事業計画により雇用を創出した。失業救済公共事業の一環である連邦作家計画(Federal Writers' Project)の中でも、前衛的特色を帯びるのが黒人研究分野であり、ライトとエリスンは連邦作家計画から文学的活路を開いたと言ってよい。ライトはプロジェクト在籍中に作家として世に出、エリスンはニューヨークの民族伝承フィールドワークから得た着想を長編小説に造形化してゆく。両作家の出現は、連邦作家計画が新進芸術家にもたらした創作基盤の証左である。ニューディール政策は、大恐慌に対する財政出動であるにとどまらず、社会の底辺で苦闘する作家の力を解放した文学史的意義を有することが理解された。 第二に、エリスンの小説と19世紀文学との間テクスト性を分析する前年度の考察を継続し、ハーマン・メルヴィルの初期作品を研究した。20世紀アフリカ系アメリカ文学に及ぼすメルヴィルの影響力は、1839年の初航海に萌芽する。綿花貿易船に乗り組み、英米の奴隷経済を繋ぐ大西洋を往還した体験に基づく自伝的小説『レッドバーン』(1849)は、メルヴィルの社会意識を知るうえで重要な意味をもつ。小説プロットと伝記的事実との比較考証から、メルヴィルの創造意図を窺い知ることが可能になる。初航海から生まれた自伝的小説は、イギリス産業革命のひずみを描くのみならず、アメリカの奴隷制度を背後から告発する類稀な旅行記として企図された。以上の研究内容を、第3回日本メルヴィル学会年次大会(2014年9月)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度は、20世紀作家のリチャード・ライトとラルフ・エリスン、および両作家に影響を与えた19世紀作家ハーマン・メルヴィルの人権意識について、伝記的見地から考察することを主眼とした。メルヴィルは経済的困難のなかにあって、産業革命の陰に横たわる社会悪を強く意識化し、文学の技法を駆使して問題化した。ライトとエリスンは、大恐慌期にニューディール政策と関わりながら出発し、人種と階級を乗り超える革新的作品により公民権運動の文学的先駆者となる。19世紀の奴隷解放思想から20世紀の公民権運動に至る一世紀を時間軸とし、時代を画した文学者の共有する社会意識の原点を探究したことに、本年度の研究意義があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
20世紀アフリカ系アメリカ人作家のリチャード・ライトとラルフ・エリスンが、米ソ冷戦時代にたどる対照的な文学の軌跡を、作品解読と伝記考証を通じて研究する。ライトは、表現活動を監視するアメリカ国家機関との葛藤のなかでフランスへ亡命し、ヨーロッパの実存主義に傾斜を強める。さらには祖先の地アフリカに向かい、脱植民地化闘争へ意識を拡大する。アメリカと断絶したライトがヨーロッパを拠点に執筆する後期作品を中心に、作家の人権意識に理解を深めたい。冷戦期におけるライトの国家権力との確執を知るうえで、FBIファイルとCIA監視記録を解析した文献は不可欠となる。 ライトと対照的にエリスンは、19世紀アメリカ文学を牽引したラルフ・ウォルドー・エマソン、ヘンリー・ソロー、ハーマン・メルヴィル、マーク・トウェインに論究する文学評論を著し、時代に先駆けて少数派人種系作家の視点からアメリカン・ルネサンス期の文学に評価を与えた。評論集 Shadow and Act(1964)と Going to the Territory(1986)に含まれる文学論に焦点を当て、19世紀アメリカ作家の人権意識に対するエリスンの思考を検証する。エリスンの評論と小説とに展開されるメルヴィル文学論について、第10回メルヴィル国際学会で研究発表を行なう。
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Research Products
(2 results)