2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25370303
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
竹内 美佳子 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (00227000)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アフリカ系アメリカ文学 / アメリカン・ルネサンス / リチャード・ライト / ラルフ・エリスン / ハーマン・メルヴィル / 奴隷解放思想 / 公民権運動 / 脱植民地化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主眼は、公民権運動と脱植民地化闘争の原動力になった20世紀アフリカ系アメリカ文学の人権思想を考察することである。リチャード・ライトとラルフ・エリスンの作品群を社会史に照らして解読し、アフリカ系アメリカ文学のもつ問題領域を探究した。最終年となる2015年度は、研究成果を第10回国際メルヴィル学会において口頭発表し、英語論文を日本メルヴィル学会の学術誌に発表した。エリスンの民主主義精神は、ラルフ・エマソン、ヘンリー・ソロー、ハーマン・メルヴィルを始めとする19世紀アメリカ文学と共振する。学会発表と論文では、エリスンの小説が内蔵するメルヴィル文学との間テクスト性を論じた。独立宣言と合衆国憲法に体現される理念の意味を問う作家の人権意識が、テクスト分析から浮かび上がった。時代に先駆けて19世紀文学の奴隷解放思想に光を当て、20世紀公民権運動の先覚者となったエリスンの文学者像が、本研究に鮮明化した。 さらに、米ソ冷戦期におけるライトの創作活動に考察を進めた。故国を去り欧州で亡命作家となるライトは、表現行為の監視を強めるアメリカ国家機関と葛藤しながら小説を生み出す。アフリカと東南アジアに向かうライトが著したノンフィクションは、脱植民地化の記録であると同時に、アフリカ系アメリカ人としての自己を客観化する企図である。ライトの後期作品が核時代の現代世界に対峙してゆく経緯を、伝記と手稿を通じて検証した。ライトとエリスンに共通する特質の一つは、アメリカン・ルネサンスの社会意識に対する洞察にある。奴隷解放思想と公民権運動とに貫流する文学的創造力についての論考を、日本ソロー学会の研究論集特別号に執筆した。
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