2014 Fiscal Year Research-status Report
16世紀イングランドにおける枢密院顧問官の詩人庇護に関する歴史的研究
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25370304
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井出 新 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (30193460)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イギリス文学 / 西洋史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究目的は、1560年代から70年代を代表する枢密院顧問官Nicholas Baconの事例を中心に、パトロンとクライアントの間に庇護関係が成立する環境とプロセスに注目することであった。具体的には、コーパス・クリスティ・コレッジ(ケンブリッジ大学)及びノーフォーク古文書館が所蔵している1570年代Bacon家や親戚筋の関連文書を調査した。その際、特に注目することになるのは、Nicholas Baconが大学学寮などに対して奨学金や寄付金という形で与えた庇護の実態と、それによって形作られることになる文人のネットワークである。 それを検証するために、コーパス・クリスティ及びノーフォーク古文書館に残されている史料、すなわちBaconがケンブリッジ大学に対して行った奨学金や寄付金に関する古文書を調査した。それらの史料を時期限定的に調査することによって、パトロンの周囲に文人クライアントが集結し、人脈ネットワークが形成されていく様子を調査と研究で明らかにすることができた。その成果を論文として纏め、Cambridge Bibliographical Societyが発行する学術雑誌に応募していたが、今年度アクセプトされ、編集者によるいくつかの修正要請を踏まえて書き直し、年度末に掲載されるに至った。 また27年度の課題である顧問官Francis Walsinghamの政治活動を亡命カトリックの側から検証するために、Richard Versteganの枢密院批判パンフレットに注目し、執筆や銅版画作成、印刷まですべてにかかわったVersteganの書物を通しての政治活動を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間の前半では、1560年代から70年代を代表する枢密院顧問官Nicholas Baconの事例を中心に、パトロンとクライアントの間に庇護関係が成立する環境とプロセスに注目することにしていた。具体的には、ノーフォーク古文書館が所蔵している1570年代Bacon家や親戚筋の関連文書を調査することで、パトロンが文人たちとどのような環境で接点を持ち、どのように庇護関係が成立し、どのくらいの期間それが継続するのか、という問題を考察する予定だったが、それについては調査が完了し、論文として纏め、発表するに至ったため、大変順調に進展したと言える。その一方で、研究期間後半で扱うことになっていた枢密院顧問官Francis Walsinghamの事例は手を付けはじめたばかりであり、Thomas Watsonと枢密院全体の庇護を受けていたと思われるChristopher Marloweの作品分析も目下進行中である。その点では若干遅れもみられるが、Baconに関する調査によって新史料を発見し、それを発表することができたことは当初の目標を十分達成しており、結果として研究自体はおおむね順調に進展していると評価できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
Francis Walsinghamとの庇護関係で取り上げる詩人・劇作家、すなわちThomas WatsonとChristopher Marloweの作品分析を行う。特にWatsonのHecatompathia (1582)とMarloweのTamburlaine the Great (1587)を読み解き、戦時下における文化的・政治的な軍事化の中で、枢密院が会議体として連帯し、彼らの庇護する詩人たちを結びつけたのか、また作品に対してどのようなイデオロギー的コントロールを行っていたのかを分析する。なおBacon庇護下にある詩人調査に二年間を費やしたため、最終年度の27年度はHecatompathiaの分析を主に行い、Marloweの作品はそれ以降に分散させる形で、ペース配分を行っていくこととする。
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Causes of Carryover |
イギリスへの調査出張は予定通り三月中旬に行ったが、イギリス滞在中にかかった交通費や物品費、その他諸費用の請求を帰国後の三月末に行ったため、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額はイギリス滞在中にかかった交通費、物品費、及びその他諸費用に充てる。
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