2013 Fiscal Year Research-status Report
黒人文学の興隆をめぐる、アンダソン、ヘミングウェイ、ウィンダム・ルイスの相克
Project/Area Number |
25370308
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
中村 亨 中央大学, 商学部, 教授 (70328029)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 英語圏文学 / モダニズム / 人種 / 間テクスト性 |
Research Abstract |
シャーウッド・アンダソンの『ワインズバーグ・オハイオ』と、そのアンダソンの著作をモデルとしてジーン・トゥーマーが書いた『砂糖きび』、そして『砂糖きび』を読んで衝撃を受けたアンダソンが書いた『暗い笑い』という三つのテクストの関係を、社会から疎外される人物に向けられる視線をめぐって二人の作家が交わした対話のプロセスとして考察した。そしてその考察の成果は、「シャーウッド・アンダソンとジーン・トゥーマー―視線の暴力をめぐるテクスト間の対話」と題する論文にまとめた。その論文は今年出版される論文集に収録される予定である。 トゥーマーは『ワインズバーグ』で列挙される社会から疎外された「グロテスク」な者達を彼自身とアフリカ系の血統を持つ者達に重ね合わせ、「グロテスク」な者達とは一線を画した立場から彼らを一方的に規定する視線の在り方に反発した。そして『ワインズバーグ』の批判的な書き換えとして、語り手が対象との抜き差しならない関わりの中に巻き込まれながらもその対象が謎に留まる『砂糖きび』の独特の語りを生み出したと考えられる。一方『砂糖きび』に「亡霊のような空虚さ」を読み取ったアンダソンは、対象の可視化と言語化を拒むテクストの空白が孕む含意、語り得ぬ人種差別の禍々しさを鋭く感じ取ったと言える。その結果白人としての負い目を意識し、『暗い笑い』で南部の黒人を純粋な視覚的対象に還元しようとするものの、彼が『砂糖きび』に読み取った「亡霊のような空虚さ」は『暗い笑い』につきまとい、黒人を牧歌的風景の一部として描くそのテクストを攪乱する。 このように三つのテクストの関係をアンダソンとトゥーマーの間で交わされた相互応答として捉えると、人種差別と切り離し難く結びついた視線の暴力性、そして二人の創作というかたちで実演される緊張に満ちた人種関係が浮き彫りになるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヘミングウェイの草稿資料が保管されているボストンのジョン・F・ケネディ図書館のヘミングウェイ・コレクションが火災により一時公開を中止したという話を学会を通して知り、昨年度はジョン・F・ケネディ図書館の訪問はを見送った。 またジーン・トゥーマーとアンダソンの往復書簡に関しては、アンダソンの手紙が手書きで慣れないと判読が難しいことが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
トゥーマーとアンダソンの往復書簡は写真撮影が許可されているのことが分かったので、現地で判読できなかった手紙はとりあえず写真に保存し、帰国してから時間をかけて判読したい。 ジョン・F・ケネディ図書館の資料は、今年度『春の奔流』の草稿と黒人が登場する未発表短編作の草稿を中心に調査する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度の春休みは学生部委員としての校務の都合で、海外調査に出かけることができなかった。 ジョン・F・ケネディ図書館所蔵のヘミングウェイの草稿を中心に調査を進める。
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Research Products
(1 results)