2015 Fiscal Year Research-status Report
黒人文学の興隆をめぐる、アンダソン、ヘミングウェイ、ウィンダム・ルイスの相克
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25370308
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
中村 亨 中央大学, 商学部, 教授 (70328029)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 人種 / モダニズム / アフリカ系アメリカ人 / トランスナショナル |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘミングウェイの未完の小説の一部で、没後に短編集に "The Porter"という題名で収められた話の草稿を、アメリカのJFK図書館で調査し、その成果を日本ヘミングウェイ協会の全国大会で発表した。調査の結果分かったことは、出版されたバージョンではアフリカ系アメリカ人の列車ポーターが人種差別への憤りを語るくだりが物語の最大の中心になっているものの、草稿ではヘミングウェイ自身が一旦は書き上げたその部分を完全に削除し、全く別の逸話に書き換えていたという事実である。書き換えられた逸話では、ポーターはほとんど登場も発言もしない。そして身元を隠し旅を続ける革命家と、主人公であるその息子が、同性愛者とおぼしき男性による執拗な詮索をかわそうとするやり取りが中心となっている。 発表ではこの書き換えを、戦争によるトラウマに苦しんでいた事実を隠しながら創作を続けていたヘミングウェイが、内心を明かせないジレンマを様々なペルソナを使い偽装して表現しようとしていた痕跡として読み解いた。またそれは、黒人の仮面をまとうことへのヘミングウェイの欲望と躊躇を示している。アフリカ系アメリカ人へのそうしたアンビバレントな姿勢が決して一時的なものではないことを、顔を黒塗りにしたアフリカ系血統のコメディアンに言及した初期の詩、『誰がために鐘は鳴る』でジプシーが歌う黒人の嘆きの唄にも言及して明らかにした。 また一方では、ウィンダム・ルイスの評論とそこで攻撃の対象となっているアンダソンの小説の関係について、二人の著作への同時代の受容や、二人のハーレム・ルネッサンスとの関わりも踏まえて検証した。検討の成果は、日本英文学会東京支部の大会で発表した。 ヘミングウェイの発表に対しても、ルイスの発表に対しても大きな反響があり、また有益な意見や反応を受け取ることができ、今後の研究の励みになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イギリスとアメリカでの資料調査を基に、学会での発表を行うことができたから。発表を聞いた聴衆の反応を踏まえ、今後は成果を学術論文にまとめることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘミングウェイの "The Porter"草稿についての研究成果はヘミングウェイの国際学会で発表することが決まっており、また今回の研究で批判しつつも下敷きにした先行研究の著者がその発表の司会を引き受けてくれたので、建設的な討論を目指したい。発表後研究は学術論文にまとめるつもりである。 ルイスについての論文はイギリスのウィンダム・ルイス学会の機関紙か、あるいは別の海外の学術誌に投稿したいと考えている。 今後は、ヘミングウェイ文学におけるアフリカ系アメリカ人の問題と、人種をめぐるヘミングウェイとルイスの関係をさらに検討していきたい。
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Causes of Carryover |
予定していた研究はほぼ順調に進んでいるが、ヘミングウェイならびにウィンダム・ルイスと、イタリア未来派およびイタリア・ファシズムとの関係を中心に、より広い射程でナショナリズムの問題を検討する必要があることが判明したため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「武器よさらば」の草稿の調査と、ウィンダム・ルイスの美学と政治との関係を中心に検討を進める
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Research Products
(3 results)