2015 Fiscal Year Research-status Report
自分が自分のものでなくなること―ディケンズの訪米にみる自己に対する所有権の侵害
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25370311
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
松本 靖彦 東京理科大学, 理工学部, 教授 (10343568)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ディケンズ / 所有権 / 著作権 / 奴隷制 / トウェイン |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、まず本研究のそれまでの成果の一部を「AuthorshipとExpectations―著作権問題からみたディケンズとトウェイン」という論考の形で学術誌『マーク・トウェイン―研究と批評 第14号』に発表することができた。 この段階で確認できたのは、1842年の第一次訪米の際、ディケンズを激怒させた3つの問題―①英米間の国際著作権不在②過剰な名士扱い(lionisation)③奴隷制―がいずれも所有権という根を同じくした問題である、ということである。これは、本研究の考察の起点であり、基調でもある〈「自由」の問題を「自己に対する所有権」の問題として読み替える〉という試みにも成果があったことを示すものである。 当該年度の本研究は、上記論考の段階から更に調査と考察を進め、補助金交付を活用した国外資料(史料)収集を経て、南北戦争前のアメリカ南部において「自由」を意図的に所有権の問題として扱った実例を確認することもできた。物品とみなした奴隷(の身体・生命)には保険をかけることができたが、それによって保険契約主は実質的にその身柄を買取ることができた。奴隷の方はその保険契約者に対して保険金全額を労働で支払うことによって自由を獲得することができた。これは奴隷をいったん物とみなすことによって、人種を根拠にした奴隷制の桎梏から(経済的に破綻すれば人種を問わず誰にでも陥る可能性のある)負債奴隷の立場にまでその身分を移行させる戦略である。 当該年度の研究推進の結果、ディケンズの思想・作品に上記の読み替えを適用することによって新たな知見を得ることを目論む本研究の焦点の1つがアメリカ南北戦争前後の奴隷の法的立場に絞られてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.研究を進展させ、その成果の一部分を2015年5月刊行の『マーク・トウェイン研究と批評 第14号』に発表することができた。
2. 国外資料(史料)調査活動の結果、本研究における考察を深めるにあたり極めて有益な文書資料を(複写の形で)入手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の今年度は、アメリカの奴隷制を激しく非難した第一回訪米時のディケンズの態度が南北戦争を経て変化した経緯について、奴隷制をあえて倫理的な観点からではなく所有権の観点から捉えて再考したい。この主題についての考察をすすめ、その内容を今年度中に国際的な学会・研究会議に応募し、口頭での研究発表を1件実現させたい。その成否のいかんを問わず、発表準備のためにまとめた内容を基にして英文の論考1点を作成したい。
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Causes of Carryover |
当初、科学研究費補助金を活用して購入を想定していた研究書を別の予算を利用して入手したため、残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の物品費と合算して研究資料(書籍)の入手に用いる計画である。
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