2016 Fiscal Year Annual Research Report
A New Historical Approach to Dracula and Spiritualism/Psychical Research
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25370313
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
丹治 愛 法政大学, 文学部, 教授 (90133686)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 心霊主義 / 科学 / ブラム・ストーカー / 『ドラキュラ』 / コナン・ドイル / 『新しい啓示』 / 『霧の国』 |
Outline of Annual Research Achievements |
『ドラキュラ』は科学と魔術が並存するテクストである。そのなかで、テレパシーと千里眼のような心霊主義的能力は、「無線」や「電話」のような新しいテクノロジーと重なりあう。これは、キプリングが「無線(Wireless)」のなかであつかったのと同じ主題であると同時に、心霊現象を認めない現代の不完全な唯物論的科学に代わる「新しい科学」の可能性を模索する、アルフレッド・ラッセル・ウォレス(進化論の共同提唱者)のような心霊研究者のテクストをも想起させるだろう。『ドラキュラ』における心霊主義とテクノロジーの問題を、魔術から科学へという歴史観をもつ進化主義的文化人類学と関連させながら研究した。 具体的にもっとも研究したのは、コナン・ドイルにおける心霊主義的信仰とシャーロック・ホームズの科学的合理主義との関係である。後者の科学的合理主義については、ホームズの推理法を具体的に追跡し(放送大学教材『文学研究への招待』の一章にまとめた)、それがいかに当時の新しい科学的方法と連動しているかを確認した。そのうえで、ドイルが第一次大戦以後に書いた、『新しい啓示』にはじまる何冊かの心霊主義的作品を読解し、そのうえで科学的信念から心霊主義的信仰への移行の思想史的意味を、1925年に発表された『霧の国』をとおして考察した。 そのうえで、『ドラキュラ』における科学と心霊主義的魔術の問題を再考した。この物語が科学の発達した西欧が魔術が残存する東欧に勝利を収めた物語とのみ読むことはできない。西欧が東欧に勝利したのは事実であるが、その勝利を可能にしたのは、ミーナのホームズ的推理法とともに、ヴァン・ヘルシングの魔術的心霊主義的知識(テレパシーと千里眼をはじめとする)だからである。この物語も、世紀末から戦間期までの西欧における科学と心霊主義の複雑な関係の典型として解釈することが可能だろう。
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