2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370318
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
栂 正行 中京大学, 国際教養学部, 教授 (10163958)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 職業 / ナラヤン / ナイポール / シン / 表象 / インド / 英語圏文学 / イギリス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
R・K・ナラヤンを中心に職業表象について研究した。ナラヤンは、ちょうどフォークナーにヨクナパトーファあるごとく、マルグディの人々を描き続けた。ナラヤンの職業表象で特徴的なのは、ある種、痙攣的に職業名をタイトルに含む作品が出るという点である。実際には、こうした作品の間に、職業名をタイトルとすることのない作品も出版されており、なぜ、そのような振り分けを行ったのかという点も、当時のインドの社会状況や作家個人の作風の変化という観点から考察した。ひとつの街に焦点をあてて、ある種の年代記をつづるというかたちはロンドンを描いたディケンズにもつながる。場を特定の上、そこにさまざまな職業の人々を配し、物語をつくりあげていくという手法は、ともすると一定の職業に就く人々を類型化して描きかねない。そうした類型のなかに、作家の職業観、さらには作家の居住していたインド南部チェンナイの職業観すら垣間見ることができた。街という閉じた空間の表象を検討する意味がそこにある。閉じた空間における職業表象、職業観を検討して初めて、次のラジャ・ラオの作品に見られるような、開いた世界に身をおく作中人物たちの職業表象、職業観の意味を考察することが可能となる。アーナンド、ナイポール、ナラヤン、シンといった作家の職業表象については、平成27年3月刊行の共著書『刻まれた旅程』(勁草書房)において詳しく論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アーナンド、ナイポール、ナラヤンまでのテキスト研究がつつがなく進行し、最終年度は、ラジャ・ラオの研究に専念できるため。
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Strategy for Future Research Activity |
ラジャ・ラオ中心にその職業表象を研究する。アーナンド、ナラヤンがインドとイギリスの関係のなかで小説を書いたのに対し、ラジャ・ラオは、フランス留学の影響を強く受けた。アメリカ、テキサス大学などの教授として大学の世界で小説を書いていたこともその作風に影響を与えた。テーマも、職業にかかわるもののみならず、近代人の苦悩に関わるもの、近代人と前近代的人間との相克にかかわるものが入ってくる。代表作The Serpent and Rope(1960)は、ヨーロッパとインド双方における真実探求がテーマで、ヨーロッパの側にいる妻とインドの側にいる夫との世界観の違いが浮き彫りにされる。当然のことながら、かれらふたりの世界観から、それぞれの職業観というものが派生し、職業表象は複雑な様相を呈する。ラオのかかえていた問題はすでにインドやイギリスという固有の地域を越えていた。それは境界や国境のしだいにあいまいになった今日のコスモポリタンが共有しうるものとなり、V・S・ナイポールのそれにもつながって行く。ラオを契機に、本研究はインド、あるいはインド系の作家の第二世代、第三世代へと展開する。第二世代の作家として祖父の代にインドからトリニダード島に渡ったナイール家の作家V・S・ナイポールの作品における職業表象との関連づけを行う。さらにインドの第三世代の作家たちをもその射程に入れる。Shashi TharrorのThe Great Indian Novel(1989)、Bapsi SidhwaのIce Candy Man(1989)、Shashi DeshapandiのA Matter of Time(1996)といった作品についても、適宜、同テーマによる研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
残額に相当する適当な金額の書籍がなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度執行予定金額に加え、執行する。
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Research Products
(1 results)