2014 Fiscal Year Research-status Report
『緋文字』にみるカトリシズム―17世紀の大西洋を貫くキリスト教と文化の諸相
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25370325
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
入子 文子 関西大学, アジア文化研究センター, 非常勤研究員 (80151695)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ナサニエル・ホーソーン / "The Great Stone Facea" / Heart / キリスト教エンブレム |
Outline of Annual Research Achievements |
「ピューリタン作家」といわれてきた19世紀アメリカのナサニエル・ホーソーンのカトリシズムへの関心は本研究申請時に比して急速に認知されてきた。しかし全体としていまだ解明が十分とはいえない。ヘスターの進歩的自由思想と宗教的渇仰の漲るカトリックの言説は、作品舞台である17世紀前半の歴史的コンテクストの中でなく、作家の生きた19世紀半ばのニュイングランドの現実の中で捉えられ、ホーソーンの時代錯誤とみなされがちである。しかしテクスト理解にはさらに17世紀及びそれ以前からのイングランドおよびヨーロッパの宗教事情の把握が不可欠である。申請者はその準備としてホーソーンの諸作品に見られる"Heart"を、テクストと図像の両面から捉え、エンブレムの伝統を浮上させた。エンブレムは17世紀の対抗宗教改革でカトリック側が好んで用いた手法であるが、図像を嫌うプロテスタント世界にも広がった。 ホーソーンのテクストに頻出する"Heart"は、「心」という、目に見えない抽象概念と, 「心臓」という具象としての意味を同時に持つことが多い。"Heart"を両面から把握することで、ホーソーンのテクストは理解が深まる。このような視点に立つ本年度の研究実績は、2014年5月の日本アメリカ文学会関西支部総会における、「ホーソーンとHeartの図像学」と題する講演と、2014年10月31日京都大学大学院での講演「"The Great Stone Face"からのメッセージ」に結実した。さらに後者の原稿に加筆したのが、『ホーソーン研究』第二号の「"The Great Stone Face"からのメッセージ―<詩人>を考える」である。なお『ホーソーン研究』は、昨年に引き続き科学研究費の間接経費の社会への還元と位置づける。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の目的は『緋文字』のカトリシズムを17世紀イングランドおよび中世のヨーロッパ史にまでさかのぼってトランス・アトランティックに考察する事だった。その準備として17世紀ヨーロッパの文化的背景として、ホーソーンが好んだキリスト教的エンブレムの伝統を、『緋文字』に限らず諸作品に即して理解しておく必要があった。キリスト教的エンブレムが17世紀にもてはやされたのは反宗教改革における主としてカトリック・イエズズ会の布教手段として成功していたからである。ヨーロッパの宗教の文化的背景をホーソーンにおいて抑えた事により、当初の目標はほぼ達成されたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ディムズデイルについての最近の一般的研究傾向は、作者ホーソーンの伝記とからめ、フロイトの精神分析を中心にセクシャルな面に重点が置かれる事が多い。それも『緋文字』解釈を豊かにするに役立っている。しかし聖書を熟知したホーソーンの特性から、ディムズデイルのカトリシズムをトランス・アトランティックに把握する試みを続け、すでに何本かの論文を発表してきた。今後はこのテーマをさらに深めていきたい。 ただし、ディムズデイルのカトリシズムについては最近、成田雅彦氏による優れた研究が出ている。同時発生的に重なるところもあるが、申請者はさらにテクストの不可思議な箇所を独自のアプローチで進める。
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Causes of Carryover |
外国出張に使用する予定だったが、危険な世界情勢を心配して、出張を取り止めた。次年度の外国出張に有効活用する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度もオックスフォード大学や、ロンドンのカトリック教会、国教会の建築、内部装飾、図書館、図書室での調査が必要となるため、イギリス出張に複数回行く予定である。また、宗教、美術、音楽などの書籍の購入も必要となる。
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Research Products
(7 results)