2013 Fiscal Year Research-status Report
トシオ・モリ文学の全体像の構築とジャパニーズ・アメリカニズム研究の確立
Project/Area Number |
25370328
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fukuyama University |
Principal Investigator |
田中 久男 福山大学, 人間文化学部, 教授 (30039135)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | トシオ・モリ / 日系二世作家 / 地方文学 / カリフォルニア州オークランド / ジャパニーズ・アメリカニズム / トパーズ強制収容所 / 『トレック』 / 『オール・アボード』 |
Research Abstract |
「トシオ・モリ文学の全体像の構築とジャパニーズ・アメリカニズム研究の確立」という本研究課題遂行のために、まず2013年9月にカリフォルニア州オークランドに渡り、すでに知己を得ているトシオ・モリの息子の好意で、彼の二人の高齢の従兄姉に会うことができ、彼らの親で作家の叔父にあたるマサオとタダシの生没年を確認することによって、ほぼ正確な作家のファミリー・ツリーを確立できた。さらに、モリの父ヒデキチのハワイ渡航が、1899年11月25日に(11月12日横浜港出港)蒸気船にてホノルルに到着という事実も、ハワイ大学の歴史資料室での調査で確定できたので、モリ文学の歴史的背景に関する研究の精度をかなり高めることができた。それ故、伝記的背景を基盤にした彼の作品分析は、かなり緻密に行うことができるようになった。 一方、作品に関しては、カリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館で、既刊のモリの3冊の作品集に収録されていない短編「コルネット奏者」「箒を持った女」「ある幸せな家族」、およびエッセイ風スケッチ「トパーズ駅」を複写で入手でき、これらをモリ文学の全体像の中に位置づける研究結果を現在論文に作成中である。これにより、1942年10月にユタ州トパーズ強制収容所に移住する前後の彼の活動の実態がかなり明確になったが、「歴史記録部」に配属された彼が、所内の新聞『トパーズタイムズ』や文芸誌『トレック』を引き継いだ『オール・アボード』の編集作業に関わった詳細については、なお今後の調査を待たねばならない。もう一つの問題は、モリ自身がウィリアム・サローヤン宛の書簡で言及している471頁の未発表の小説『これらホームレスの人々をお送り下さい』の原稿が、モリ家の倉庫に眠っていると息子の口から聞いているので、モリ文学の全体像を解明するためにも、この貴重な資料を調査する機会が与えられるのを辛抱強く待つ必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トシオ・モリ文学に関してこれまで刊行された著作は、処女作『カリフォルニア州ヨコハマ町』、2作目の短編集『ショーヴィニスト、その他の短編』、唯一の長編小説『広島から来た女』、および、中編小説『ムラタ兄弟』や、ウィリアム・サローヤンとの往復書簡、さらにはインタビュー等の貴重な資料を収録した雑録集『未練の残ったメッセージ』をすべて精読し、各作品の創作の年代順的な査定はほぼ完了した。またモリ家にまつわる伝記的事実の跡づけも、大枠においては固めることができた。こうした基礎的作業を基にして、モリ文学のヴィジョンの大きな特質である禅的な世界に通じる静謐さや、ストイックな人生観に支えられた人間味あふれる優しさに焦点を合わせて考察した。また同時に、世間的な価値観からするとフールと判定される人間が、周囲の凡人には見えにくいヒーローの輝きを帯びる人物に変転するというモリ文学の魔術を、彼の芸術的英知の証しとして究明するために、彼自身が影響を受けたと告白しているシャーウッド・アンダソンの「グロテスク」や、フラナリー・オコナーの「フリーク」という概念との関連において考察し、その成果の一部は本課題研究開始直前に活字にしたが、さらにそれを発展させるかたちで現在執筆中の論文にまとめているところである。「トシオ・モリ文学の全体像の構築」に連結して目指している「ジャパニーズ・アメリカニズム研究の確立」というもう一つの重要な作業は、彼がトパーズ強制収容所体験をどのように受容して芸術的に昇華したかということとも深く関わってくるので、周辺の歴史的資料を読破することで彼の収容所体験の全体的理解を平成26年度中に遂行し、それをジャパニーズ・アメリカニズムという記憶装置としての批評形態となるように、一つのイデオロギーとして洗練し提唱する予定である。このような状況から判断して、本研究の進捗はおおむね順調だと自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
1942年10月にサンフランシスコ郊外の仮収容所のタンフォーラン集合センターから、ユタ州トパーズ強制収容所に家族と共に移住する前後の彼の文学活動の実態が、これまでの伝記方面の跡づけ作業からかなり鮮明になったが、「歴史記録部」に配属された彼が、所内の新聞『トパーズタイムズ』や文芸誌『トレック』を引き継いだ『オール・アボード』の編集作業に関わった詳細な内容については、なお今後の調査を待たねばならない。その詳細を調査するために、2014年9月に上記の貴重な資料を所蔵しているユタ州ローガン市にあるユタ州立大学のメリル・ケイジアー図書館、および大学付設の博物館を1週間ほど訪問する予定である。この調査では、モリの文芸活動に陰に陽に影響を与えていたはずの「日系市民連盟」(JACL)の活動との関連についても究明したいと思っている。このユタ州立大学での調査の後、カリフォルニア州立大学バークレー校のバンクロフト図書館と、スタンフォード大学中央図書館に立ち寄り、モリの作家としての成長に多大な助力をしたウィリアム・サローヤンとモリとの書簡、彼らと出版社との間の書簡や電報、およびサローヤンと日系市民連盟との関連等を調査することを考えている。これらの調査旅行で必要とする資料がそろわない場合には、さらに本研究課題遂行の3年目に再度アメリカの関連機関を訪問して、集中的に本研究課題追究の穴となっている部分を埋め合わせて、最終目標を達成する予定である。上述の未発表の小説『これらホームレスの人々をお送り下さい』の原稿を査読するチャンスが生じない場合にも、そのタイトルとわずかな情報から仮説を立てることにより、「トシオ・モリ文学の全体像の構築とジャパニーズ・アメリカニズム研究の確立」という本研究課題遂行の包括的な結果を、本の形として世に問うことができるように私自身の原稿を完成したいと思っている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「トシオ・モリ文学の全体像の構築とジャパニーズ・アメリカニズム研究の確立」という本研究課題は、平成25年度~平成27年度の3年間の科学研究費助成金の受託による研究なので、小さな残額は2年目の平成26年度に回して有効に使用することを考えた。 トシオ・モリが、トパーズ強制収容所内の新聞『トパーズタイムズ』や文芸誌『トレック』を引き継いだ『オール・アボード』の編集作業に関わった内実を詳細に調査するために、2014年9月にこれらの資料を所蔵しているユタ州ローガン市にある州立大学のメリル・ケイジアー図書館、および大学付設の博物館を1週間訪問する予定である。これにより、モリの文芸活動と「日系市民連盟」(JACL)との関連についても究明したいと思っている。この調査の後、カリフォルニア州立大学バークレー校バンクロフト図書館と、スタンフォード大学中央図書館に立ち寄り、ウィリアム・サローヤンとモリとの書簡、彼らと出版社との書簡や電報、サローヤンと日系市民連盟との交友等を調査する計画である。 おそらく上記の調査旅行で、平成26年度の助成金の半分を超える額を使用することになるが、残りは本研究課題に関する図書や、高性能の電子辞典を購入する予定である。
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