2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370336
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
MEVEL YANN 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90431486)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | サミュエル・ベケット / フランス文学 / フランス演劇 / 領域横断的研究 / セミナー / 出版 |
Research Abstract |
本年度は、東北大学東京分室において、2014年1月、セミナー「サミュエル・ベケットとフランス文化」を開催し、3名の発表者を迎えた。1人目はルウェリン・ブラウン氏で、海外からの招聘研究者である。ブラウン氏は、当該分野における複数の著作の著者であり、研究誌の編集も行っている。また、ニュージーランド出身のフランス人研究者として、フランス語と英語で論文を発表しており、セミナーにおいてはこれら2種の言語の異なる視点を提示してくれた。そして、ラカン研究の専門家として、ベケット作品の精神分析的批評の見取り図を示し、フランスにおける批評的言説の特殊性を明らかにしてくれた。さらにブラウン氏は、仙台においても講演を行い、ベケットとデュラスの作品を対象に、美学における現代性をテーマとして、創作と破壊の関係について議論した。 セミナーにおいては、研究発表者の間で活発な議論が行われた。ベケット研究者であり、名古屋芸術大学の准教授である西村和泉氏は、ベケットとカミュの特定の作品を比較し、両者の関係に新たな見方を提示した。また、東京大学およびパリ第8大学の博士課程学生の高山典子氏は、特にアラン・バディウの研究に依拠しながら、理論的な観点からベケット作品の分析を行い、思考と詩の関係を明らかにしようと試みた。 このように今回のセミナーは多くの優れた研究発表に恵まれただけでなく、世代、所属機関、専門分野、フランス語圏・英語圏を問わず多様な参加者を迎えることができた点でも大変な成功であった。 また、ブラウン氏の寄与によって、我々の研究計画の成果を出版する見通しが立ったのは大きな成果であった。この出版に向けて3月のパリ滞在においてはブラウン氏と打ち合わせを行い、この単行本の構成を具体化することができた。さらに、ブラウン氏と共にフランス国立図書館において資料調査を行い、採録するテクストについて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度開かれたセミナーによって、我々の研究計画は大きく前進した。これは特に、セミナーに多様な参加者を迎えられたためである。また、セミナーのこれまでの研究発表を出版することを見据えて多くの議論が行えたのも、本年度の成果であった。ブラウン氏の協力により、学術出版大手のミナール社にこのセミナー内容の出版を依頼できることとなった。現在編集中のこのセミナー論文集は、ベケット研究の専門家の間では国際的によく知られている叢書シリーズの一冊に加わる予定である。ブラウン氏との打ち合わせによって、セミナーでこれまで行われた研究発表の内容をより精密に検討するために招聘する研究者の候補を何名かリストアップした。また、作業日程とともに、論文執筆の規定もすでに決定している。現在準備中の別の刊行物のすぐ後に刊行予定であり、編集作業は急ピッチで進められるであろう。 また、東京両国に劇場を構えるシアターXの責任者と面識をもつことができたのも、このセミナーの大きな成果であった。彼らは劇制作には妥協のない厳しい姿勢で臨む優れた演劇集団であり、またベケット作品への造詣も深い。我々の研究プロジェクトを進める上で、3年目には彼らとの共同作業を行う予定であり、演出家あるいは俳優をフランスから招聘することを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究プロジェクトの2年目にあたる本年度の計画としては、まずは、セミナーの成果の出版を見越して、我々の研究計画をまとめる段階に入っていく。そして、これまでに行ってきた形式にならって、セミナーを開催する予定である。招聘する研究者を精選し、またセミナーへの様々な参加者を得ることで、引き続きセミナーのよりよい運営に務めていく。また、これまでに行われた研究発表にもとづいて、それぞれの発表者が原稿を執筆し、出版のための編集作業を進めていくことになる。今年度中にはこうした原稿を受け取ることになっており、続いて、収録される論文の内容を補完するような論文の寄稿を呼び掛け、年度の終わりには、協力を得られた研究者とのやり取りを行いながら、さらに編集作業を進めていく。そして、この書物の末尾には覚え書きのような形式の書評を付すことを検討しており、書評の対象となるような出版物の選定も行っていくことになるだろう。 この研究プロジェクトの3年目には、こうした編集作業を終えることになる。特に本年度に企画するセミナーでの研究発表に関わる作業がその中心となるであろう。さらに本書に採録するこの研究プロジェクトを総括する論文を申請者の手によって作成する。また同時に、3年間のこの研究プロジェクトにおける最後のセミナーを組織する必要がある。これは、ベケットにおける演劇をテーマとするセミナーとなるであろう。これまでのような批評・理論的なアプローチの研究発表はもちろんのこと、それ以外にも、創作の場からのアプローチにも多くの場を提供したい。これにより、セミナーは日本人ベケット研究者ばかりではなく、より広く、日本でベケット作品に興味を抱く多くの人々に対しても開かれたものとなるであろう。
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