2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25370343
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
博多 かおる 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60368446)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フランス文学 / オノレ・ド・バルザック / 音楽 / ポリフォニー |
Outline of Annual Research Achievements |
バルザックの〈哲学的研究〉とそれに連なる作品、『サラジーヌ』『ガンバラ』等における音楽の役割を研究し、そこにアイデンティティの問題、そのねじれが色濃く現れているとともに、身体性だけでなく、機械的なものとの関係も示唆されていることを見た。この点については、世紀後半に書かれるリラダンの文学などとも関係づけて展開する意義があると思われる。 当初、音楽が〈流体 fluide〉の概念と密接に結びつき、伝達困難な情念の流れの一部を担っているのではないかと仮定していたが、その点は『アルベール・サヴァリュス』などにおいて確認できた。同時に、音楽をとおした透明な伝達が機能しないという逆説もいくつかの小説で提示されていることがわかった。この問題に関連する可視・不可視な「敷居」の問題については、引き続き検討を行っていきたい。キリスト教音楽における聖母伝説や異教の神との関係については、田村毅先生の講演をとおして考察を深めることができた。 また語りの音楽性、言葉の余白にある静けさや、楽器演奏に喩えられる言語化されない音、その演出について、中編小説『カディニャン公妃の秘密』などを例に検討した。その一部は、研究論文として近く発表する予定である。 噂の音楽性、ポリフォニーとそこに生まれる不協和音については、国際バルザック研究会のパリ第七大学での学会で "Interpreter la polyphonie dissonante - la lecture des rumeurs dans les romans de Balzac"という題のもとに発表した。作品における会話や、作品の構造自体に音楽的な概念があてはめられていると同時に、複数の主題が対位法的に絡み合いながら、かならずしも共鳴しないことによって、社会における階級間の対立や思想・文化面における軋轢が表されていることなどを分析した。
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