2013 Fiscal Year Research-status Report
ギリシア・ローマ文学における他者への罪責と赦しの研究
Project/Area Number |
25370347
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 正廣 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40127064)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ギリシア / ローマ / 他者 / 罪責 / 赦し |
Research Abstract |
ギリシア初期からローマ帝政時代までの叙事詩文学を対象として、個人間および共同体間の危機的関係における罪責と赦しの観念を探り、その変容を跡づけた。 (1)まずホメロスの『イリアス』には、とくにアキレウスとアガメムノンの関係およびアキレウスとプリアモスとの間に罪責と赦しを示唆する出来事が描かれるが、それらの描写を罪責と赦しの場面として扱えるのかを検討した。一方罪責と赦しの問題がより深刻に見える『オデュッセイア』では、とくに最後の場面における赦しについて検討した。 (2)次にヘレニズム時代のアポロニオス『アルゴナウティカ』を取り上げ、ギリシアの英雄による異民族・異文化との接触、共同体と個人の関係、自由人と奴隷の支配関係、老人と若年層との関係、男性と女性の差異などに関する言語表現と文学的描写からいかなる新しい社会意識がうかがえるかを検討し、そうした新たな社会意識の浸透した神話的物語の中に罪責と赦しの意識を探った。 (3)ウェルギリウスの『アエネイス』を対象として、ローマ時代の他者に対する罪責と赦しについて考究した。この作品では、ローマ帝国という多民族を統合した市民共同体の成立を背景として、個人・家族・社会・民族・性などの次元でギリシア世界とは異なる他者像が描かれるが、それらを文学テクスト内外の文脈と関連づけることによって、新たな共同体の発達にともなって顕著化した罪責と赦しに対するいっそう深い問題意識を検証した。 (4)ギリシア・ローマ文明の辺境にあたる黒海沿岸地域(現ブルガリア・トルコ)において、トラキア時代からビザンチン時代までの異民族間の対立と融合に関して現地調査を行なった。また同じく比較文明論的考察のため、沖縄と台湾おいて民族抗争と共生の歴史に関する調査も実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ギリシア文学のホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』およびヘレニズム時代の『アルゴナウティカ』の伝統を受け継ぎ、古代ローマ人の歴史認識と対民族意識を集約的に表現したウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』において、ギリシアの叙事詩にはまだ十分描かれなかった戦争の罪責と赦しの問題が、独自な英雄の内面描写の中で深められ、また主人公とさまざまな登場人物との関係においても一貫して追究された結果、この長編作品全体に異例の終結をもたらした内的・精神的プロセスを、ラテン語原典の緻密な文学的分析にもとづいて明らかにすることができた。そしてその研究成果を単著論文「ウェルギリウス『アエネイス』の結末と戦争の罪責」としてとりまとめて出版・公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
戦争をめぐる罪責と赦しの問題は、西洋古代にかぎらず西洋の中世・近現代、さらには東洋や日本の古代から現代までの民族抗争の歴史的経験や精神史・文学創造などとつうじる事柄であり、そうした普遍的な観点からの問題意識を深めずして、ギリシア・ローマ文学の底辺に沈積した人類史的な人間認識を掘り起こすことは困難である。したがって当該研究をより効果的に推進するためには、古典文献学の従来的な方法の限界を克服する有力な手段として、比較文明論的なアプローチと成果を大きく取り入れる必要性を痛感している。人類の歴史は、ある意味では罪過の繰り返しであろう。できる限り多くの民族の歴史的事例についての理解と洞察を深め、新たな古典解釈の可能性を追求していきたい。
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Research Products
(2 results)