2016 Fiscal Year Research-status Report
ギリシア・ローマ文学における他者への罪責と赦しの研究
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25370347
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 正廣 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40127064)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ギリシア / ローマ / 他者 / 罪責 / 赦し |
Outline of Annual Research Achievements |
ギリシア・ ローマの歴史書に見られる市民間・異民族間・異宗教間の対立と抗争にともなう罪責と赦しの事例について、以下のように検討・考察した。 (1)ギリシア古典期のヘロドトス『歴史』やクセノポン『キュロスの教育』における狭隘な民族主義を超えた人間観、および、ヘレニズム期のポリュビオス『歴史』における世界国家思想の中で国家や個人の罪責と赦しの問題がどのように扱われているかを分析した。 (2)歴史家でもあったローマの政治家・軍人ユリウス・カエサルが政治的スローガンとして掲げた「クレメンティア」(clementia, 寛恕)に関して、その内実と意図がいかなるものであったのかを、『ガリア戦記』『内乱記』の両歴史書を対象として考察した。 (4)ローマ時代のサッルスティウスとタキトゥスによるローマの政界に対する批判的な歴史書では、罪責と赦しの問題は権力と関わる重要な論点となったが、それについて両史家の語法と記述にもとづいて検討した。 またホメロスの叙事詩の再検討を行ない、戦争の罪責意識の観点から作品の意義を通史的に考察した。さらに以上の文献学的研究とともに、罪責と赦しに関する東西文明の比較研究も推進するため、①スロヴェニア、イタリア、クロアチア、モンテネグロ、セルビアにおける中世から現代の第二次世界大戦までの民族抗争とユダヤ人の人種差別と虐待に関する歴史的調査、および②ベトナムにおける古代から現代までの中国・フランス・米国による支配に対する歴史認識と罪責追及に関する現地調査を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ギリシア・ ローマの歴史書に見られる罪責と赦しの事例について検討し、またホメロスの叙事詩を再考察した結果、そうした倫理的な他者意識が深化する過程は人間の歴史体験と密接に関係していることが明らかになってきた。すなわち、ギリシアの前古典期と古典期のポリスを中心とした歴史の段階では、罪責と赦しはおおむね個人や家族の問題として認識されていたが、共同体が広域化したローマ時代には、それらは個人の問題であるのみならず、国家や民族などの社会的集合体の共存に関わる集団間の問題としてとらえられ、いっそう広範な人間の課題になっていったのである。 さらに、中世から近現代までの人類の歴史は、古代におけるそうした社会的な認識と意識を継承、ないしは反復的に経験していることを、比較文明論的な視点から実施したスロヴェニア、イタリア、クロアチア、モンテネグロ、セルビアおよびベトナムにおける諸人種と諸民族間の相克の歴史に関する調査によって確認した。 初年度以降の課題も含めた研究成果としては、古代ギリシア人の社会認識と他者意識の原点をなすホメロスの『イリアス』と歴史との関連に関する考察を取りまとめて公表した。そしてその際にも、今年度の現地調査によって得られた中世から近現代までの歴史に関する知見と認識が大いに役立った。
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Strategy for Future Research Activity |
戦争をめぐる罪責と赦しの問題は、西洋古代に限らず西洋の中世・近現代、さらには東洋と日本の古代から現代までの民族抗争の歴史的体験や精神史・文化創造と通じるものである。そうした普遍的観点からの問題意識を深めることによって、ギリシア・ローマ文学の底辺に埋もれた人類史的な人間認識を新たに掘り起こすことが可能であろう。 そのため、こうした研究をより効果的に推進するためには、古典文献学の伝統的方法の限界を克服する有効な手段として、比較文明論の研究方法と成果を取り入れる必要性を昨年度に引き続いて実感している。 人類の歴史は、いわば類似の罪過の反復であるように思われる。そのため、今後もできる限り多くの地域と民族の歴史的事例に触れ、それらに対する理解と洞察を深めて、グローバル化した世界に生きる現代人にふさわしい新たな古典解釈の可能性を追求していくつもりである。
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Research Products
(2 results)