2013 Fiscal Year Research-status Report
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25370348
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 宏幸 京都大学, 文学研究科, 教授 (30188049)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 西洋古典 / ラテン文学 / ローマ人 |
Research Abstract |
共和政末期からアウグストゥス帝の治世にかけて現われてくる「ローマ人」像について、ラテン文学作品を中心とする関連文献を、なかでもカエサルとウェルギリウスに注目して検討し、(1)その諸相を析出する、(2)支柱をなす理念を把握する、(3)形成された理想の「ローマ人」を各作家が提示する表現手法をあきらかにする、という目的にそって、本年度は一方で基本作業としてカエサル関連著作についての邦訳作業を進める一方、とくにウェルギリウス『アエネーイス』を対象に考究を行なった。 カエサル関連著作の邦訳作業は、まだ試訳段階ながら、著者不明の三作品『アレクサンドリア戦記』『アフリカ戦記』『ヒスパーニア戦記』を含めて全体のほぼ9割まで到達した。 『アエネーイス』に関しては、これまで重要性が十分に認識されてこなかった「葬礼」のモチーフを検討し、それが先人の記憶を留める点で、遺志を引き継ぐことで達成される「永遠のローマ」の理念とも関連しながら、作品の基盤をなしていること、作品中もっとも議論の多い結末場面においても暗示的に織り込まれ、死の絶対性、および、これと対比的に未来の不可知性の表現に与っていることを論じた。加えて、この論考とすでに公表ずみの「非情」および「運(fortuna)」のモチーフをめぐる論考の主要部分を統合することにより、結末場面に対して再考を試みる論考を英文で発表した。主人公である英雄も含めて人間には不可避である知の限界性が「非情」と「運」のモチーフを通じて「誤解」ないし「思惑違い」として表現されているという観察から、この表現が「葬礼」に示される未来の不可知性と連動していることを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カエサル関連著作、『ガリア戦記』『内乱記』『アレクサンドリア戦記』『アフリカ戦記』『ヒスパーニア戦記』の邦訳を9割方終えることができた。 ウェルギリウス『アエネーイス』の作品理解にもっとも重要であると考えられる結末場面について一定の説得力を有すると思われる論考を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
基本作業として、カエサル関連著作、『ガリア戦記』『内乱記』『アレクサンドリア戦記』『アフリカ戦記』『ヒスパーニア戦記』の邦訳を仕上げ、公刊を目指す。 本年度とくに力を入れたウェルギリウス『アエネーイス』に関する検討を踏まえ、詩人による他の二つの詩作『牧歌』および『農耕詩』との関連に目を向ける。その際、大きな視点としては、「ローマ国民詩」と呼ばれる諸作品の流れの中に捉え、より狭くは、『牧歌』から『農耕詩』を経て『アエネーイス』へという詩人内部での発展を見る。『牧歌』における基本的にのどかな田園世界に暮らす牧人像、『農耕詩』における、労働に耐え、平和な営みの中に国家の基盤をなす農民像、『アエネーイス』における、人間にとって最大の試練であると同時に、もっとも理不尽な所為である戦争を正面から見据え、その中で苦闘する英雄像、それら詩作の核に置かれた人間像の変遷を「ローマ人」像の成熟と重ねて考察する。
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