2013 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ語圏における神話・伝説素材の作品化に見られる集合的記憶の諸相
Project/Area Number |
25370363
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
園田 みどり 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (80246363)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古屋 裕一 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (10229130)
WALTER Ruprechte 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (50254123)
山本 潤 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (50613098)
犬飼 彩乃 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 研究員 (70622455)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 独文学・独語圏文学 / 記憶 / 伝説 |
Research Abstract |
中世英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』を再作品化する形で悲劇に描いた劇作家F.ヘッベルの生誕200年に当たる2013年、毎年開催される「ニーベルンゲン演劇祭」でも、そのヘッベルの悲劇三部作『ニーベルンゲン』のうちの第1部と第2部の現代における翻案 Born To Die が上演され、その舞台を鑑賞することができことは大きな成果であった(2013年7月6日、7日、ドイツ・ヴォルムス市において園田、山本が鑑賞)。ヘッベルの戯曲はキリスト教世界と異教の世界の対立を、キリスト教世界の優位という結末へと導くことで、閉じた完全な世界を描いている。しかし龍退治や陰謀・暗殺によるジークフリートの死などの冒険的要素に満ちた躍動的な文学空間は、視覚映像化されて新たな生命を獲得する可能性に満ちている。今回の現代版ヘッベルの注目すべき特徴は、そもそも「記憶 Gedaechtnis」として刻まれたテクストとしての戯曲から、「想起する erinnern」行為そのものとしての演劇、つまり「記憶 Erinnerung」の実践への展開として、伝統的な小道具から高度な視覚映像技術に至るまで様々な媒体が、イメージ喚起装置として用いられ、高い効果を上げていることであった。語りの多層化や聖堂の側面を利用したスクリーン上での映写などがヘッベルの物語の相対化に寄与する一方で、低くなった舞台全体を覆うぬかるんだ泥、足下から音がせりあがってくるように響く和太鼓などは、遠大な時間的隔たりを一気に縮め、暴力や戦闘を暗示させる原初的な場を呈示し、そこに観客をいわば引きずりおろす役割を果たしていたと言える。演劇こそ記憶の呼び戻しに大きくかかわる文化装置だという認識を得た。また、山本の論文(『トーマス・クリングと中世』)は中世素材の現代における再作品化の意義を主題としており、本研究の一個のケーススタディとしての意味を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトの主要メンバー二人が、ヘッベルによる悲劇『ニーベルンゲン』の新たな舞台を渡独の際に鑑賞する機会を得たことによって、本来、平成26年度に行う予定でいたヘッベル作の再作品化の検討のほうを平成25年度に繰り上げて行ったため当初の計画とは異なってしまったが、第2年度に行う予定でいたヘッベル作の再作品化についての検討は行うことができた。また、今年度以降研究を推進するための書籍および資料や機器を購入することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初平成25年度に計画していたロマン派の作家フケーによる『北方の英雄』3部作を対象とし、テクスト研究を行う。また、昨年度中に観劇したヘッベルの戯曲についての解釈をテキストと演出の分析をもとに引き続き行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究に必要な基礎文献は昨年度中にほぼ揃えることができた。しかし、今後研究の進捗に応じて更なる文献購入の必要性が生じることが予想されるため、今年度の書籍・資料購入費を十分なものにするため、残額を持ち越すこととした。 書籍・資料購入に充てる予定。
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Research Products
(2 results)