2015 Fiscal Year Research-status Report
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25370366
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
北見 諭 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (00298118)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア思想史 / ロシア哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「ロシア宗教哲学ルネサンス」と呼ばれる20世紀初頭のロシア文化の高揚期に現れた数人の思想家を検討の対象とし、彼らが第一次世界大戦期に展開した「世界戦争」の思想の意味を、その背景にある彼らの認識論や存在論などを念頭に置きながら解読しようとするものである。 27年度は、前年度の秋に開始したセルゲイ・ブルガーコフの「経済哲学」に関する研究を継続して行い、その研究成果を研究会で発表するとともに、下書きの段階ではあるが、論文を執筆するところまで作業を進めた。 ブルガーコフはマルクス主義者として理論活動を開始しながらも、やがてマルクス主義から離れ、その批判者となるが、1910年前後になると、彼は新たな観点からマルクス主義を再評価するようになる。新たな観点というのは、マルクス主義を一種の生の哲学と見なすような独自の解釈である。マルクス主義には上部構造と下部構造という対があるが、ブルガーコフはこれを表層の静態的な構造と、そうした表層を深層のレベルで規定し、動態化させる生命の力という生の哲学的な対と重ね合わせて理解している。そして彼はそのように理解したマルクス主義を「形而上学的な歴史哲学」、「歴史の存在論」と呼び、その歴史理解を高く評価するのだが、しかし同時に、彼はマルクス主義における生産諸力が、非目的論的な、盲目的、カオス的な力であることを批判し、キリスト教や神秘主義に由来するソフィア論の立場からマルクス主義の生産諸力のイメージに修正を加え、独自の経済哲学を構想しようとする。 我々はブルガーコフのこうしたマルクス主義評価と批判、そして独自の経済哲学の構想を明らかにするとともに、マルクス主義を巡って展開される彼のこうした思想が、ベルクソンやニーチェなどを巡って展開される同時代の他のロシアの思想家たちの思想と同じ軌道を描いており、彼らの思考と同じ枠組を持っていることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最初の年度に予定していたフランクの思想の研究が予定の一年間では終わらず、一年半を要し、その時点で半年分の遅れが生じたが、その遅れが現在も続いている。 ブルガーコフ研究に関しては当初の予定通り、一年半で終えることができた。しかし、フランク研究の遅れを取り戻すには至っていないため、現状でも進捗状況は「やや遅れている」となる。
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Strategy for Future Research Activity |
五年計画の研究であるため、残された年数はあと二年である。そして予定している研究も、大きく分ければあと二つである。一つはロシア宗教哲学ルネサンスの思想家たち、とりわけイワーノフ、ベルジャーエフ、ブルガーコフの三人の世界戦争の思想を検討することであり、もう一つは、世界戦争の思想と彼らの生の哲学的な存在論を関係づけるため、その媒介の一つとして彼らの主体に関する思想を明らかにすることである。 現在の計画では、今年度にロシアの思想家たちの世界戦争論を検討したいと考えている。研究代表者は本年度、北海道大学スラヴ研究センターの客員研究員を務めることになっているが、研究テーマは、「ロシア宗教哲学ルネサンスの生の思想と世界戦争」である。この客員研究員制度では年度内に一度口頭発表を行うことになっているため、年度内にはこのテーマについての一通りの考察を済ませたいと考えている。 そしてその翌年度、本研究の最終年度となる29年度には、最後のテーマ、ロシア宗教哲学ルネサンスにおける主体の思想に関する考察を行うことにしたい。ここでも主に取り上げるのはイワーノフ、ベルジャーエフ、ブルガーコフの三人であるが、彼らの思想の中心である認識論や存在論についてはすでに研究を済ませているため、彼らの主体に関する思想については、それほど多くの時間を要することなくまとめることができるのではないかと考える。 残りの二年の研究については、以上のような計画のもとで進めていくことにしたい。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた書籍の入荷が遅れたため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入を予定していた書籍を購入する
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